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リーダーシップではなく、オーナーシップ。ガイアックス流の社内起業制度「カーブアウト・オプション」#WORKDESIGNAWARD2021

「働くの実験室(仮)」活動記録 by SmartHR

WORK DESIGN AWARD」は、働き方をアップデートするために奮闘する組織や人を応援したいという思いから創設されたSmartHR主催のアワードです。初開催となる2021年は、6部門を設け、合計で100を超える企業や団体から応募が集まりました。

そのなかでエンプロイーベネフィット部門に選ばれたのが、株式会社ガイアックスの「カーブアウト・オプション」。同社の従業員であれば誰でも事業を法人化でき、株式所有はもちろん報酬額や資金調達に至るまで、すべての意思決定を行える制度です。

同制度の生まれた背景や影響について、同社CCO(チーフカルチャーオフィサー)の木村智浩さんに伺います。

木村智浩(きむら・ともひろ)
2004年4月にガイアックスに新卒入社。営業、新卒採用、経営企画などを経て、企業向けSNS事業の立ち上げから国内シェアNo.1獲得に従事。その後、コンタクトセンター運用改善、ネット選挙事業を経て、現在はチーフカルチャーオフィサーに就任。モンテッソーリ、自由教育、自然農、乗馬が好きな四児の父

組織と人を伸ばしていく、新しい「社内起業」の形

ガイアックスは、「人と人をつなげる」をミッションに創業したスタートアップスタジオ。生活者同士が情報や感情を分かち合えるソーシャルメディアや、モノや時間を共有するシェアリングエコノミーなどの領域に注力し、投資をしています。

昔から個人の裁量が大きく、新規事業を作る機会にあふれた会社でした。サラリーマンでありながら、自分でチームを組み、事業を育てて、舵を切っていく。各事業部で独立採算制を取っていたこともあり、自由に仕事を進められる楽しみがありました」と、木村さんは話します。

空気が少しずつ変わってきたのは、2010年代に入ってから。クラウドソーシングやクラウドサービスの隆盛によって、人材や資金はじめ各種リソースの調達がしやすくなり、起業の難易度は下がっていきました。ガイアックスの社内で新規事業を生み出すことと、退職して自ら事業を起こすことに、決定的な差がなくなってきたのです。

その結果、ガイアックスの社内で起業することには、いくつかのデメリットが目立つようになりました。従業員がどれだけリーダーシップを発揮しても、社内事業である以上、経営のオーナーシップを持つことは難しい。労働のリターンを充分に享受できないことがきっかけとなり、ガイアックスを離れる優秀な人材も出てきました。

また、社内で新規事業を起こす場合には、どうしても会社の意向から影響を受けてしまいます。意思決定のスピードが下がり、経営スキルが育ちづらいために、事業の成功確率も低下。ときおり伸びる新規事業があっても、ガイアックスの領域から大きく外れた事業内容の場合、適切な評価をすることが難しくなってきました

リスクはある。でも、社員にのびのびとチャレンジしてほしい

そうした背景から2015年に生まれたのが「カーブアウト・オプション」でした。

申請すれば事業を子会社化でき、事業メンバーに対して全株式の50%にあたるストックオプションが付与されます。また、議決権の所有や第三者からの資金調達はもちろん、報酬を配当にするか給与にするかといった細かい内容まで、事業に関するすべての意思決定をガイアックスから切り離すことが可能です。

カーブアウトオプション制度の仕組み。同制度を利用したアディッシュ株式会社が2020年に東証マザーズ上場。2021年にはEDGE株式会社が資金調達によりMBOを果たしています。引用:ガイアックスWebサイト「カーブアウトオプション制度

「外部資本を受け入れればガイアックスの連結決算からも外れるため、メンバーやチームは『社員』ではなく『投資先』になります。事業の上場やバイアウトをするも自由、しないも自由。すべての権限と責任を手に入れることで、社員はさらなるオーナーシップを持って事業経営に臨めます。“会社に所属しながら自分の事業を自分の会社にできる制度”といえるでしょう」

現場のニーズの高まりも、制度誕生を後押ししました。オーナーシップを持って進められた社内事業が分社化し、上場から株式公開にまで至った例も過去にあったそうです。そうした前例を「特別ルール」という枠に収めるのではなく、誰もが利用できる制度にしたほうがいいと、社内で検討が進められました。

誰もが事業を起こして分社化できるのは、経営陣にとってはパンドラの箱を開けるようなもの。当初は不安もありました。しかし、リスクもリターンも自分たちのサイズに収め続けるより、従業員が思う存分チャレンジできる環境を整えたほうが、会社もメンバーも成長できると考えたんです。

たとえば、せっかく優秀な大学生が裁量権の持ちにくい企業に入って、いつの間にか挑戦意欲を薄めていく様子もたくさん見てきました。企業の論理が、人の情熱や才能をつぶしているんです。組織のルールに縛られてポテンシャルを発揮できない人材を、これ以上増やしたくない。カーブアウト・オプション制度があれば、ガイアックスでサラリーマンをやりながら、のびのびと起業にトライしてもらえます」

分社化が生むシビアな側面は、丁寧なコミュニケーションでカバー

制度活用にあたって、シビアな側面はあります。従業員にとっては、何事も自己責任。「会社が予算を出してくれないからやりたいことができない」「会社にNGと言われた」といった言い訳はできなくなります。

どこまでやるかは、すべて本人次第なんですよね。会社からはマイルストーンセッションとして、四半期ごとにやりたいことを整理する時間を設けています。『あなたは何がしたいんですか?』『人生をかけて熱中したいことは?』『それを、どうやって進めていきたいんですか?』といった質問を投げかけ、壁打ちの相手になっているんです。また、いざ社内起業するとなれば、立ち上げや検証、エンジニアの確保など、さまざまな支援も用意しています」

会社としては、社内の事業を切り離すたびに、大小の経営判断が伴います。とくに、すでに結果を出している事業を分社化し、連結決算の対象から外す場合は、単年の売り上げがぐっと下がることも。IR面でのコミュニケーションには、気を遣わなければなりません。

「毎年の売り上げ利益こそ持たないけれど、有価証券を売却すれば現金になるし、株式公開にこぎつければさらにリターンは増える。なので『損益計算書ではなく賃借対照表で見てください』と言いたい。ただ、貸借対照表で表現されるのは上場株式のみです。また、対外的なコミュニケーションでいえば、分社化した会社が子会社に見られてしまうデメリットもありますね。マーケットや投資家に対して、細かな制度を丁寧に説明していく必要が出ています」

また、こうした制度がある以上、会社からトップダウンで事業を進めていくこともできません。いつでも分社化できてしまうだけに、会社としてのまとまりや帰属意識の欠如を危惧する声も聞こえます。

「そもそも、僕たちは帰属意識を持つために働くわけじゃありません。価値観に共鳴し合える人と一緒に働くなかで、帰属意識が自然と芽生えるのがベストだと思うんです。当社には確かにまとまりはないかもしれませんが、『こうやって自由に働けるガイアックスっていいよね』という会社愛は育っていると感じます」

起業も副業もガイアックスの社内で完結できる「会社版の多夫多妻制」

カーブアウト・オプションは、ガイアックスに大きな成果を生み出しました。アントレプレナーシップを持つ社員が、退職ではなく社内起業を選択し、いきいきと働けるようになったのです。

「事業を進めていく過程で分社化を考え、交渉の末に権利をもぎとるケースは、他社にもあるかもしれません。でもこの制度下では、事業を立ち上げる時点からオーナーシップが持てる。自分の事業として力を注いでいるうちに、気づけばそれが本当に自分の会社になっているんです。ガイアックスに忖度することもなく、事業責任者がそれぞれ経営者感覚で働けます。『上に方針を決めてもらおう』といった人には向きませんが、社内で新規事業にトライしたい人にとってはすごく魅力的ではないでしょうか」

現在は、この制度が軸になり、新規事業の創出自体がガイアックスのメイン事業となっています。新規事業の立ち上げから分社化、上場といった循環を繰り返していくビジネスモデルが生まれたのです。事業が増え、分社化していくたびに、最初のうちは「会社をハサミで切っているような気がした」という木村さん。でも今は、最初から切れているいくつもの個を、一緒に突き詰めていく感覚になったといいます。

「社内の事業がそれぞれに、働くメンバーを社内で募集するシーンも増えてきました。先日は入社1年目の新人が起こした事業が1億以上を売り上げ、人材を募集して、別事業部の責任者から質問を受けている……なんて場面も。人間関係はとてもフラットだし、起業も副業もガイアックスの社内で実現できてしまうんですね。会社版の多夫多妻制といってもいいかもしれません」

「社外に目を向けても、会社という概念は、どんどん変わってきています。副業が一般的になりつつある今、複数社の仕事を担っている方も少なくありません。また、ICTが進化すればするほど、仕事にかける情熱こそがいちばんの付加価値になっていきます。そのなかでカーブアウト・オプションは、“会社のために個人があるんじゃなくて、個人のために会社がある”ことを加速させていく仕組みと言ってもいいでしょう。それぞれの情熱を思う存分発揮してもらえば、個人にも会社にも大きな還元ができると考えています」

文:菅原さくら 撮影:田野英知

ガイアックスが取り組む「カーブアウト・オプション」に関する詳細はこちら


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