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読む、 #ウェンホリ No.17「不謹慎に対する価値観を寛容さで変えていく」

ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

第17回では、アナウンサーの堀井美香さんと小国士朗事務所のプロデューサー小国士朗さんが、「セーフとアウトの線引き。“不謹慎”の壁をつくるものは?」をテーマに語り合いました。

これまで認知症やがん、セクシャルマイノリティなど一般的に「センシティブで触れにくい」と思われている社会課題を他の人にはない視点からアプローチしてきた小国さん。どのようなことを意識してプロジェクトに取り組んでいるのでしょうか?

“不謹慎”の線引きを決めるものとは?

堀井:小国さん、いろんな取り組みをされてるんですけども。たとえば、この「注文をまちがえる料理店」っていうのも、パッと聞いただけだとちょっと誤解を生んでしまうとか……「そうか、そうか。認知症の方たちがそんなことをするんだ」って。まあ、なんでしょう? 言葉は悪いんですけど「不謹慎だ」みたいなこともなんとなく、言われたりするということもおありだったんですか?

小国:ありますね。その認知症の状態にある方がホールスタッフを務めて。で、注文を取って配膳するわけですけど、そこで間違いも起きるんですよね。忘れちゃうこともやっぱりあるんですよね。で、そういうこと言うと「えっ、それって認知症の状態にある方を見世物にするの?」とか「笑いものにするの?」とか。「そういうプロジェクトなの?」って。それこそ本当に「不謹慎じゃない?」っていうようなことを言われたことは、これまでも何度もありますね

堀井:新しいプロジェクトを立ち上げたりとか、新しいことをすると、やっぱり価値観自体がまだみなさん、バラバラだったりするから。そこで共感って、なかなか得られないときもあるんですけれども。ここまでで小国さんが今、どういうことをされてるのか? っていうのをリスナーのみなさんにわかっていただいたところで、今回はそんな小国さんとこちらのテーマです。「セーフとアウトの線引き。不謹慎という壁を作るものは?」ということで、ちょっとお話したいなと思うんですが。

今、おっしゃいましたその「注文をまちがえる料理店」ですとか、「delete C」のお話もありましたが。小国さんが過去に手がけてきたプロジェクトを拝見しますと、認知症やがん治療、セクシュアルマイノリティなど、一般的に「センシティブで触れにくい」と思われているその社会課題を他の人にはない視点からアプローチして、多くの人に伝えているということをしてらっしゃるわけですが。

今回、そのセンシティブだと思われている問題をどう扱っていくのか? ということについて話していきたいなと思うんですが。この「不謹慎」という言葉もね、人によっていろいろと捉え方が違うと思うんですけども。どうですかね? 今、SNSを見ていても「ちょっと不謹慎だ」とかね、発言などに対してあまり寛容ではなかったりするんですが。そういうところは、どうですか?

小国:そうですね。まあ不謹慎って……価値観って、すごい大事だなと思うんですけれども。やっぱりその人その人が持ってる価値観って、けっこう違うものもあると思っていて。その価値観との距離というか、ギャップ。それによって「不謹慎さ」っていうものが出てくるなって気がすごいするんですよね。だから「認知症」っていう言葉を聞いたとき。「がん」っていう言葉を聞いたとき。「LGBTQ」っていう言葉を聞いたとき。その言葉を聞いたときにその人それぞれが思い描くイメージだったりとか、それに対する価値観。こことのギャップで「その表現は不謹慎なんじゃないの?」っていうのがはじめて生まれてくるということだと思うので。だからやっぱりその価値観の問題っていうのはすごい大きいよな、とか。今、おっしゃっていたその「寛容さ」みたいな話。

それを不謹慎と思うかどうかっていうのは、この社会の側のその寛容度みたいなところはすごく大きいと思うんすよね。ものすごく寛容な社会であれば「まあ、それもいいじゃない」っていうことかもしれないんだけれども。不寛容な社会であれば「いやいや、それはダメでしょう。不謹慎でしょう。そんなことをやったらNGでしょう」っていう。まさにセーフとアウトの境界線が結構明確に引かれていくっていうところがあるよなとは思うので。

まず、不謹慎であるかどうかっていうことは、テーマそのものに対しては誰も不謹慎だとは思わないんだけれども。そのテーマをどう扱うか。どう発信するか。どう表現するかってこと。その表現に対して、不謹慎かどうかっていうジャッジがされるよなっていうことをまず、思いました。

童話「北風と太陽」の太陽的なアプローチで取り組みたい

堀井:そのジャッジされることに対して、小国さんの場合はでも、それを「笑い」に変えていったり、ユニークな企画にしていったり。今まで、丁寧に扱っていたものを割と、なんというか、みなさんの目に触れるようにわざとアクションしていくということがあったと思うんですけど。そのあたりは意識的にされていたんですか?

小国:そうですね。やっぱり、よく言われるんですけど。「認知症なのに」とか「がんというテーマなのに、こんな明るい表現で」とか。でも、なんか僕はそっちのほうに逆に違和感が割とあるタイプで。というのは、自分がやっぱりメディア出身だったからということもあるのかもしれないんですけど。堀井さんもそうかもしれないんですけれども。社会課題をテーマに報道するとか、番組を作ってお伝えするとかっていうとき、どっちかっていうとその「北風と太陽」の寓話になぞらえると、やや北風寄りというか。

「こんな問題があるぞ!」とか、「これをこのまま放置したら、大変なことになるぞ!」とかって、あの寓話通りビュービューと風を吹かせて気づいていただくっていう。これ自体はすごく大事な機能だと思うんですけれども。その北風状態をやりすぎると、見てくれている視聴者の方とか、情報に触れる方がだんだんともうあの寓話の旅人のように、コートを絶対に脱がないような、頑なな感じになってきて。「このテーマが来たら、私は見たくない」とか。

だんだん、そういう「見たくないもの」として記号化されていって。ちょっと距離がどんどん遠ざかっていく。その話題が出てきたら、チャンネルを変えちゃうとか。ページを閉じるとか。そういうふうになっていきがちだなって思っていて。自分自身がNHK時代は『クローズアップ現代』とか『NHKスペシャル』っていう、けっこうジャーナルなものをつくっていたってこともあったんですけれども。

なんか、この北風的なアプローチは課題を気づいてもらううえでは大事なんだけれども。だんだんそれによって人が見なくなってしまうなっていうのがあったときに、太陽的なアプローチというものもすごく、必要なんじゃないかなって。なので、そういう意味でいうと、ちょっと「フフッ」ってみんなが笑えるような。思わず手に取りたくなるような。で、それはまた寓話になぞらえるならば、思わずコートを脱いでしまうような、そういうアプローチみたいなものをやっていくことによって、結果的にそういうものに参加する方が増えていくというか。そういうのがやりたいなっていうのはすごく意識しているので、「delete C」にしても、「注文をまちがえる料理店」にしても、思わずみんなが「なに、それ?」って覗いてみたくなる、手に取りたくなるというものはつきりたいなって、けっこう意識してましたね

心を動かされたという真実があるからやっていける

堀井:なんか、丁寧に扱わなければいけない題材が多いじゃないですか。その中で小国さんがちょっと神経を使ったり。「ここは大事にしている」みたいなところはどこですか?

小国:原風景っていうか。先ほどの「注文をまちがえる料理店」の話でいうと、グループホームで「今日はハンバーグだよ」って聞いたのに餃子が出てきた。だけど、みんながおいしそうに餃子を食べているっていう、その風景があるか、ないかっていうのはすごく大きいなって思っていますね。ともすれば、「注文をまちがえる料理店」って、言葉遊びじゃないんだけども。宮沢賢治さんの本もありますよね? まあ、向こうが先なんですけど(笑)。でも、ちょっとした言葉遊びで思いつかないこともないだろう。思いつくかもしれない。だけど、そこでその言葉だけで走っていくと一見、おもしろそうで。一見、仕組みとしてもできそうな気はするんだけれども。なにか、どこかで「怖いな」とか、「こんなことをやって、大丈夫なんだろうか?」って不安になる瞬間って来るような気がするんですよね。

だけど、僕が実際に見た風景。実際に自分がその風景を見て、実際に自分が心をものすごく動かされちゃった。それがあるから、このプロジェクトをやるんだ。このタイトルでやるんだ。その原風景を持っているからこそ、迷わず、ぶれずに。周りから何を言われても、「いや、この風景は本当にあったんだよ。この風景に僕は本当に心を動かされちゃったんだよ」っていう真実があるので。そこがあるか、ないかっていうのは、プロジェクトをやるうえではすごく大事にしていますね。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ


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