パプアニューギニア海産「フリースケジュール制度」の奥にある人間中心の働き方 【「#WORKDESIGNAWARD2021」グランプリ取材レポート】
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パプアニューギニア海産「フリースケジュール制度」の奥にある人間中心の働き方 【「#WORKDESIGNAWARD2021」グランプリ取材レポート】

日本の働き方をアップデートした取り組みを見つけ、讃え、広める「WORK DESIGN AWARD 2021」の授賞式が2021年11月24日(水)に開催されました。

100通を超える応募のなかからグランプリに輝いたのは、パプアニューギニア海産。同社で取り組んでいる「フリースケジュール制度」はシフトを提出せず、従業員が好きな時に出勤することができるユニークな制度です。工場長の武藤北斗さんがこの制度を導入するに至った背景とはどのようなものでしょうか?

私たち「働くの実験室(仮)」チームは同賞の授賞式に先立ち、アワードの審査員を務めるジャーナリストの浜田敬子さんとともに、同社の工場に伺いました。実際に工場を取材して感じた現場の声とともに、武藤さんと浜田さんの対談の模様をお伝えします!

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天然エビを用いた加工食品の製造を行うパプアニューギニア海産。その生産拠点は、材木加工工場がひしめく大阪府摂津市鳥飼本町にあります。

この日、「WORK DESIGN AWARD 2021」審査員の浜田敬子さんとともにパプアニューギニア海産の工場へ訪れると、工場長の武藤北斗さんが自ら迎え入れてくれました。

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パプアニューギニア海産 工場長の武藤北斗さん

清潔感のある工場は、近隣にあった前工場から移転したばかり。昨年から規模を拡大して営業を行っているそうです。

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工場として稼働している建物の1階に加え、2階にはオフィススペースと物販コーナーが併設されています。ここでは、パプアニューギニア海産の商品はもちろん、全国から厳選された信頼できる品質・生産過程の商品が展開されているとのこと。

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そんなパプアニューギニア海産が導入している「フリースケジュール制度」は、従業員が好きなときに、好きなだけ働けるというもの。休みの連絡が必要ないどころか、“禁止されている”のだから驚きです。

この取り組みが「従業員の自律性」や「働くモチベーション」を引き出すものだと評価され、「WORK DESIGN AWARD 2021」のグランプリに輝きました。浜田さんは、フリースケジュール制度を“働き方の民主化を後押しするもの”として、強く推します。

この日、浜田さんはフリースケージュール制度を活用して働くパートタイマー2名、社員として働く1名、計3名のインタビューを行いました。


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勤続11年となる彼女はフリースケジュール制度が導入されるずっと以前からパプアニューギニア海産で働いています。「子どもの成長に合わせて働き方を選べるので助かっています」

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パートタイム従業員から社員になった彼女は、パプアニューギニア海産で働くために工場近隣に引っ越してきたそうです。「もっと仕事を頑張りたいと思い社員を志望しました。時間だけでなく、働き方も選べるので自分の特性に合った仕事に就くことができます」

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金融機関から転職した男性従業員の方は、履歴書と共に武藤さんへの手紙を送ったそう。「生活を犠牲にする今までの働き方が当たり前ではなかったと気付かされました」と、大きく変化した仕事観について話してくれました。

現場で働く方々からの声を受けて、浜田さんは何を感じたのでしょうか? ここからは、武藤さんと浜田さんの対談の様子をお届けします。

企業の働きやすさは「選択肢の数」と比例する

浜田:以前より書籍『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』なども拝読させていただいています。本日は武藤さんとお会いできるのを楽しみにしていました。

武藤:ありがとうございます。こちらこそ、受賞の連絡を聞いて驚きました。まさか、グランプリを受賞できるとは思ってもいませんでしたので(笑)。今日はなんでも聞いてください。

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浜田:従業員のみなさんが働かれている様子を取材させていただきましたが、印象的だったのは「仕事を嫌だと思ったことがない」と声を揃えられていた点でした。とくに“いつでも働ける”よりも“いつでも休める”ことがありがたいと。

武藤:フリースケジュール制度は、仕事場から“嫌なもの”を取り除くための制度なんです。お子さんがいるご家庭だと、いつ何が起こるかわからないじゃないですか。熱を出すなんて珍しくない。そんなときの「休みます」の一言がどれほど言い出しにくいか。そうした心理的障壁をなくしたいんですよ。

浜田:私自身、女性が過半数の職場で働いていたのでよくわかります。そうした事態を受け入れる環境が整っていないと、安心して働くことはおろか通常業務も回らないですよね。

武藤:働きたくないときは働かなくてもいい。子供がいても満足のいくように働くことができる。そうした選択肢を用意するのが経営者の仕事だと思っています。

浜田:今回、AWARDで拝見したなかでも働き方の選択肢が多様な企業が「働きやすい」という評価を受けていました。

武藤:働きやすさは“選択肢の多さ”にある程度比例しますよね。働きやすい環境をつくるために「好きなことをやっていいよ」と言う経営者もいますが、ときに「好き」はプレッシャーになることもあります。プラスを用意するのではなく、マイナスをなくすという考え方がいいのではないかと思います。それが功を奏してか、弊社ではここ2年間は従業員が辞めてないんですよ。

浜田:パートタイムの方が多い仕事場では、すごく低い離職率ですよね。

武藤:多くの企業では「何曜日は出勤してほしい」「週に何日は出勤してほしい」と働き方を縛ってしまうことが多いですが、それ自体がそもそもおかしいんですよね。パートタイムは労働時間に対して対価を受け取るシステムなので。だから、仕事を主に置かない人でも働きやすい場所にしたいという思いもありました。

浜田:書籍でもフリースケジュールを導入してから、武藤さん自身の姿勢も「なんで出勤してくれないんだろう?」から「出勤してくれてありがとう」に変わっていったと言及されていましたよね。

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WORK DESIGN AWARDにて審査員を務めるジャーナリストの浜田敬子さん

武藤:従業員はそれぞれの生活があるなかでわざわざ時間を割いて働いてくれている。だから、「ありがとう」なんですよ。でも、僕自身も「なんで期待に応えてくれないんだろう」とか「内心では僕のことをどう思っていのだろう?」と不安だった時期もありました。それは対等な関係ではなく、一方的に仕事をお願いしている後ろめたさがあったからなんですよね。

浜田:制度の導入に従って、武藤さんと従業員の関係性も大きく改善したということですね。

武藤:徐々にいい関係性を築けてきている実感があります。とはいえ、離れてしまった社員のことを考えながら、やっと社員の声を聞ける体制になったに過ぎません。

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フリースケジュール制度がうまくいく理由は「わからない」

浜田:食品業界ではコロナ禍で大きな打撃を受けた企業もありました。経営への影響はありませんでしたか?

武藤:ほとんどなかったですね。それどころか売り上げは伸びていますよ。変化らしい変化といえば、学校が休みになったことで子供がいる従業員の勤務時間が少し変わったぐらいです。

浜田:フリースケジュール制度なら変化にも対応しやすいですよね。この制度がうまく機能している要因はどこにあると思いますか?

武藤:正直なところ、なぜうまくいっているのかは私自身もよくわからないんです(笑)。スタートしてから数週間ほどで絶対にうまくいくという手応えを感じましたが、予測をはるかに超えるメリットが生まれていて。

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浜田:具体的には、どういった点でしょう?

武藤:もともと“大きな問題がなければOK”という見通しで設けたんです。しかし、導入後は売上が伸びて、人員管理に割いていたコストも削減されました。これらは当初まったく予想していませんでしたね。

浜田:運用しながら気づいたメリットの方が多かったのですね。

武藤:その結果からわかったのは、私たち経営者が考えているよりも、人も働き方も“多様”だということです。成功の要因はまだはっきりとわかりませんが、このまま従業員が増えていけば何かしらの実証ができるはずです。

ただ、私自身“わからない“ということをポジティブに捉えています。想像が及ばないのであれば、実験をしながらうまく方法を探していくしかない。ならば、成功する理由は明確でなくてもかまわない。弊社では働き方の改善を逐次行っているのですが、フリースケジュール制度はたまたま根付いた一例に過ぎないと考えています。

浜田:さきほど話を伺った従業員の方が「働き方のルールは自由だけど、ワークフローに関しては細かいルールが定められている」と仰っていました。これはフリースケジュール制度を導入するうえで明確化した部分ですよね。そのほかに武藤さんが取り組んだことや、心掛けていることはありますか?

武藤:みんなで話し合うことはしないようにしています。私が従業員とそれぞれ1対1で話はしているのですが、何を実施するか、どんな制度を導入するかは私が決めています。

浜田:武藤さんが現場の声を吸い上げていらっしゃるのですね。

武藤:みんなの声を集めたうえで、あらためて従業員に提案するようにしています。というのも、そもそも従業員の声を平等に反映させていくことはできないですし、そうした振る舞いはむしろ信頼関係を崩すだけだと思っているんです。

フリースケジュールは信用があってこその制度です。そのためには従業員一人ひとりと本気で向き合う必要がありますし、そこではじめて従業員も本気で考えてくれる。無防備に信用したり、制度だけをつくるのは、まったく意味がありません。

浜田:制度そのものよりも、そうしたプロセスや環境づくりが働きやすさを下支えしていると。

武藤:とにかく本気で話を聞くことだけは徹底しています。従業員の話を聞かない経営者は向き合うことが怖いのではないでしょうか。私が以前「従業員を絶対に解雇しない」という宣言をみんなの前でしたところ、社内の人間関係が良くなったんです。全員を守り抜くと宣言したことで、保身に走ったり、誰かのせいにしたりする思考がなくなったんですよね。

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コロナにも動じない「人を中心にした働き方」を設計する

浜田:武藤さんのお話を通じて、自分たちの職場にもフリースケジュールのような制度を取り入れたいと考える方もいらっしゃると思います。働きやすい職場をつくるためのポイントがあれば、教えていただけますか。

武藤:私自身、人様にアドバイスできる立場にはありませんが……大事なのは制度ではなく“考え方”だと思います。フリースケジュール制度も、あくまで考え方を突き詰めた結果でしかありません。この制度が万能とも、他の企業で機能するものとも思っていないんですよ。もし弊社のような考えを取り入れるとしても、他の企業では別の形になるはず。

ただ、どんな制度であっても従業員を中心に設計した制度であるべきだと思います。そうすれば、企業はどんな事態にも対応していくことができます。

浜田:それが強い経営基盤に繋がっていくと。

武藤:そう思います。人を大事にするのはフリースケジュール制度に限った話ではないんですよ。たとえば、製品を安売りをしないということにも繋がっています。

弊社の製品は、従業員がたくさん働いてつくりすぎた場合のみ、セール価格での販売をお願いしているのですが、普段はどんな企業でも同じ値段で販売しています。どんなに頼まれても安売りはしません。

浜田:あくまで、流通側の事情でセールはしないということですね。

武藤:自分たちの生産ペースを守り、高い品質を維持する。いい食品を流通させるためにはこのやり方以外にないと思っています。結果的にフリースケジュール制度ともマッチして、いい循環が生まれていて。

いい食品をつくること、セールをしないこと、働き方を改善すること、私のなかではすべて根っこで繋がっているんです。本気でいいと思えることを突き進めていくと、理にかなった社会の在り方に近づいていく。そう信じて経営しています。

パプアニューギニア海産に入社して気づいた「働き方に当たり前なんてない」

働き方や経営の難しさ、そして食品に対する思い入れの話まで、武藤さんは取材時間を大幅に超えて熱く語ってくださいました。浜田さんは「会社の核にある哲学がより深く感じられた」と、パプアニューギニア海産での取材を振り返ります。

「経営者の視点と従業員の立場はまったく異なります。にも関わらず、この会社では、みんなが働きやすいと感じている。話を伺った従業員の一人は、わざわざ引っ越しをしてまでパプアニューギニア海産で働くことを志望したそうです。

なかでも『それまで普通だと思っていた残業や、家族との時間を犠牲にして働くという価値観は当たり前じゃなかったと気づかされた』とおっしゃっていたのが印象的でした。この点については、私たちも深く考えていかなければなりません」

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パプアニューギニア海産を訪れてわかったのは、「フリースケジュール制度」は会社の思想を体現しているものの、あくまでひとつの取り組みに過ぎないということ。例えるなら、パプアニューギニア海産という大きな樹から伸びた枝葉のようなものです。その幹にある“従業員を中心に考える”という経営思想が働きやすい環境をつくっているのです。

オンラインフェス「WORK and FES 2021」を12/11(土)に開催します!


今回の取材の様子や「WORK DESIGN AWARD 2021」の最終審査会・授賞式の様子、審査員や受賞者へのインタビューなどを取り上げるドキュメント映像を、12/11(土)に開催のオンラインフェス「WORK and FES 2021」で上映します。申込不要で当日どなたでもご参加いただけるので、ぜひ公式サイトをご覧ください!11/29(月)まで、事前と事後にオリジナルノベルティが届くプレゼントキャンペーンの募集も実施中です。

■WORK and FES 2021 公式サイト

また、本年初開催の「WORK DESIGN AWARD」では、8つの取り組みが受賞しました。全受賞取り組みのご紹介はこちらの記事をどうぞ。

「WORK DESIGN AWARD 2021」 受賞企業・団体が決定しました! グランプリは、 株式会社パプアニューギニア海産 #WORKDESIGNAWARD2021



SmartHRがはじめる「働くの実験室(仮)」は、さまざまな取り組みを通じて人と企業のこれからを模索するプロジェクトです。社会の変化をしなやかに受け止めながら小さな試みを繰り返す、実験室のような存在を目指します。こちらでは実験の過程を随時公開しています。