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広告業界の魅力を伝える漫画は、どの業界の人にもかっこいい働き方を教えてくれる漫画だった。うえはらけいた/マスナビ『ゾワワの神様』 #WORKDESIGNAWARD2022

「WORK DESIGN AWARD」は、働き方をアップデートするために奮闘する組織や人を応援したいという思いから創設されたSmartHR主催のアワード。2回目の開催となる2022年は、全7部門(公募は6部門)を設け、合計で100近くの企業や団体から応募が集まりました。
 
そのなかでコンテンツ部門を受賞したのは、うえはらけいたさんによる新人コピーライターの成長を描く漫画『ゾワワの神様』です。

入社を志望する学生が年々減少していると言われる広告業界。そうした逆境のなかで、広告業界で働くことの魅力を少しでも伝えたいという想いのもとに、本作がつくられました。しかし、その内容に話題が集まり、いつしか業種を問わず多様な層に読まれるまでに。SNSを中心に共感の声が響いています。

『ゾワワの神様』の作者であるうえはらさんに、働き方にまつわる新たな気づきを与えてくれるこの物語の成り立ちやこだわりを伺います。

うえはらけいた
コピーライターとして勤務していた博報堂を2015年に退職。翌年、多摩美術大学グラフィックデザイン学科に編入し、マンガを描きはじめる。2020年4月にマンガ家として独立。現在は『ゾワワの神様』『アバウトアヒーロー』『アバウトアサンデー』などを執筆中


古巣の広告業界に、少しでも恩返しできる仕事がうれしかった

うえはらさんは漫画家になる以前、広告業界に身を置いていました。「広告づくり、めちゃくちゃ好きでした」と微笑みます。そんなうえはらさんが広告業界を離れたのは、どのような理由があったのでしょうか。
 
「誰もが体力と熱量をかけて、いいものをつくろうとする姿勢がかっこよかったし、広告というコンテンツ自体も面白いと感じていました。でも、消費スピードが速く、どんなに素晴らしいものをつくっても1年後にはほとんどの人に忘れられてしまう。それがすごくもったいなく感じられ、何年も何十年も残るものをつくれたらという思いが、日に日に強くなっていったんです。それで26歳のときに務めていた広告代理店を辞めて、美大で絵を学ぶことにしました」

大学卒業後、うえはらさんは広告業界に戻りますが、わずか2年で退社。本格的に漫画やイラストの道を歩みはじめます。

それから数年が経ったある日。広告系就活サイト「マスナビ」を運営するマスメディアンから、うえはらさんのもとに1通のメールが届きます。広告業界を志望する学生が減っているので、就活生向けに業界の魅力を伝える漫画を描いてほしい——うえはらさんが広告業界を離れて漫画家になったことや、広告業界で働いていた時期に出会った先輩とのエピソードをSNSで漫画にしていることを知っての依頼でした。

「僕の描いたものを読んでくれている人がいるんだ、というだけでうれしかったですね。しかも、クライアントは広告業界。新しい夢を追いかけるために離れた業界でしたが、この仕事を頑張ることで恩返しができたらと思いました」 

そうして生み出されたのが、広告業界で働く人の名言や、仕事に対する姿勢を描いた漫画シリーズ『ゾワワの神様』です。印象的なタイトルは、家の周りを散歩している最中に思いついたとか。

鳥肌が立ったり、感動したりする“ものづくりの仕事”全般をイメージしました。広告業界にかぎらず、働くすべての人に向けたタイトルです」と、うえはらさんは説明します。

あえて、広告業界の外にも届く作品をつくる

タイトルのコンセプトと同様、作品のターゲットも広めに設定しているとか。当初の想定読者は「広告業界を志望する就活生」でしたが、同業界や他業界で働く若手にまで、その裾野を広げたのです。

「的を絞りすぎると、結局は誰にも刺さらない。ほどよく世の中に受け入れられるためにはどうすればいいか? というのは、広告業界時代から指摘され、考え続けてきたことでもあります。だから、コピーライターである主人公の成長物語ではなく、1話ごとにさまざまな職種や働き方の哲学を持っているキャラクターを出し、読者に何かしらの気づきやアイデアを持ち帰ってもらえるような構成にしました。広告業界の魅力づけにとどまらず、働くすべての若手を鼓舞できる作品にしたかったんです」
 
そのように広めのコンセプトを持ちながらも、広告業界の志望者増という目的を踏まえて、スタートからしばらくはコピーライターの話を中心に投稿していました。ところが、第5話。会議中に自分のアイデアを「恥ずかしい」というのはやめたほうがいい、という物語に、他業界で働く人々からも大きな反応があったのです。
 
「『メーカーで働いているけれど、うちの部署でも共有したい』などの声を見て、広告の世界で閉じた内容にする必要はないんだ! とあらためて自信になりました。ときには業界色の強い話もあるけれど、いまは基本的に『広告以外の領域にもきちんとつながる話になっているか?』という視点を大切にしています

悩む主人公に共感し、真摯に働く先輩キャラクターに憧れ、カッコいい名言で仕事への気づきを得る。そんな1話構成の漫画は、アイデア勝負です。

「ただ、今のところネタに困ったことはありません。逆に、シリーズになったことで『あれも描ける』『これも描ける』と思ったくらい。漫画ほどキメ台詞的に言う人はいないけれど、広告業界には本当に名言メーカーが多かったんですね。飲み会や会議の場でぽろりと、たくさんの素敵な言葉をもらってきました。お説教文化が根強いことも、その一因じゃないでしょうか。でも、言ってくれる人がいないと成長できないから、お説教って大事だなと思います。ネタには困らないけれど、そういう先輩方の姿勢やいい台詞をきちんと伝えながら、6~12Pの短い漫画として成立させるのは、それなりに苦労しているかもしれません」

もうひとつ難しいのは、作中に出てくるコピーのクオリティを担保すること。主人公がすばらしい成果物をつくるために試行錯誤するなかで、先輩のクリエイターが名言を発し、いいものができる(もしくは、先輩がいい案を提示する)といった構成が多いため、最後に出てくるコピーライティングがハイレベルでないと、物語が成立しないわけです。

「たとえば料理漫画だったら、登場人物が『めちゃくちゃおいしい!』と大きなリアクションを取っていれば、絵はそこそこでもストーリーは成立します。漫画で味は伝わらないからです。でも、コピーは文字だから、読者も善し悪しがわかってしまう。悪いコピーの例はいくらでも出せるし書いていて楽しいんですが、いいコピーをつくるのは難しいですね。漫画家になったはずなのに、コピーライター時代と同じ苦しみを味わっているようです(笑)」

「ゾワワを読んで広告業界を受けています」とコミティアで言われた

隔週ペースの連載はSNSやWebメディアでも紹介され、幅広い読者を獲得。それだけでなく、マスメディアンが出版する広告業界の就活情報誌で、描きおろし版も発表しました。

「就活情報誌が出たすぐ後、コミティアで個人の同人誌を販売したんです。そうしたら、来ていたお客さんが情報誌を読んでくれていて。『あれがきっかけで広告業界を受けているんです。ありがとうございました』と言われて、胸がぐっとなりました。それこそ漫画みたいな話ですよね」

インターネットにさまざまなコンテンツがあふれる昨今、就活生にとって「面白いものをつくるなら広告業界」というイメージは、以前ほど強くなくなってきているのかもしれません。それでも、コピーライティングは企画や創作のすべてにつながる能力だと、うえはらさんは語ります。

言葉にストイックになれる人たちの需要は尽きないと思うんです。だからコピーライティングの面白さや大切さを広告業界をとおして知ってもらいたいし、その志望者が減らないためのお手伝いは続けていきたいと考えています。実は先日、広告時代の同期と食事に行って『うえはらの漫画、広告業界にすごくプラスになってるよね』と言われて、本当にうれしかったんですよ」

広告業界でコピーライティングを経験したことは、漫画家としての強みになっています。「日曜日の夜になると、翌日に出社するのが嫌になってしまうタイプでした。だから会社員に寄り添って、出社したり働いたりすることを憂鬱に感じなくなるような漫画が描けたら、と思っています」とうえはらさん。会社員をしていたからこそ、描ける世界があるのです。

漫画は、超一流の仕事がコンビニで買える業界。自分に満足してしまいそうになったら『週刊少年ジャンプ』を読めば、いつでも向上心が戻ってきます。もともと『これくらいでいいか』とラインを引いて妥協することはないタイプですが、そのラインをいっそう上げて、引き続き面白い漫画を描いていきたいです」

文:菅原さくら


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