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ムービー「“働く”の100年史|100 YEARS of WORK in JAPAN 」公開秘話

8月18日(水)、ムービー「“働く”の100年史|100 YEARS of WORK in JAPAN」を公開しました。
公開以来、Twitterを中心にたくさんの感想を寄せていただいていて嬉しい限りです。みなさま、ご覧いただけたでしょうか?

制作期間約5ヶ月を経て完成した今回の映像。
その裏側には、たくさんの試行錯誤や過程がありました。
この記事では、実験室メンバーのnakamariとpsanaeが企画のはじまりから完成までを振り返ってみたいと思います。

日本社会の一世紀を追いかけて

ムービー「“働く”の100年史」は、“サラリーマン”という働き方が日本社会に生まれた1920年代を起点に日本の働き方100年を追いかけた2分間の映像作品です。

この100年間を切り取る15のシーンを通して、日本社会の変化と共に働き方が変化していく様子をピクセルアニメーション(ドット絵)で描きました。

どの時代にも、その時々の価値観で精一杯働いた人々がいたこと。
働き方にまつわる常識や価値観は、時代と共に絶えずアップデートされてきたこと。

何度も更新されてきた日本社会の「働く」を振り返ることで、これから先の働き方を考えるきっかけになればという願いを込めて制作しています。

企画のはじまり

今回の映像は、この夏スタートした「働くの実験室(仮)」プロジェクトの企画第一弾として制作を始めました。

プロジェクトの立ち上げが決まった時、はじまりにふさわしい企画は何だろうと、いろいろと考えました。
人の働き方や企業のあり方について考えるために生まれたプロジェクトの最初の一歩。
それは、シンプルに「働く」についてたくさんの人と考えるきっかけを作るものにすると同時に、これからさまざまな活動を積み重ねていく中で立ち戻れる、プロジェクトにとっての原点のようなものにしたいと思いがありました。
そしてさまざまな手法を検討した結果、たくさんの方々に直感的にメッセージを届けることができ、なおかつアーカイブもしやすい「映像」という表現方法を採用することに決めたのです。

「これからの『働く』について考えるきっかけになる映像」を制作する、という大きな方向性が決まった後、制作パートナーをお願いすることになったEPOCHさんとの打ち合わせを始めました。
その中でプロジェクトが長期的に目指していることや、私たちが現状考えているアイデアについてたくさんの議論を重ね、生まれた企画の一つが「“働く”の100年史」の原型でした。

当初、他にもいくつかの異なる方向性での企画案があったのですが、
「日本社会の働き方100年の歴史を辿ることで、この先の働き方を考えるきっかけを作る」という企画趣旨に、強く惹かれたことを覚えています。

一世紀という長い時間軸をテーマにすることで幅広い世代の方に共感をもって見ていただけるものになるのではないか、そしてその後さまざまな対話を生むことに繋がっていくのではないか、という予感があったのです。

シーン選定と、綿密な時代考証

こうして企画の方向性が決まり、具体的に各年代で何を描くかの検討に移りました。100年という歴史はとても長く、“働く”にまつわるできごとも膨大です。

そこでまずは制作チームに各年代の象徴的なシーンを洗い出してもらい、一つひとつのシーンを一緒に眺めながら、2分間という限られた尺の中で何を盛り込めばよいのか、取捨選択していきました。

その時にもっとも重視したのは「描こうとしている風景が、当時のリアルかどうか。それは、その時代を象徴するのに本当に適したものなのか。」ということです。

例えば「1970年代当時、新宿西口の高層オフィスビル群は新しい時代の象徴として広く認識されていたのではないか?」「男女雇用機会均等法が施行された1980年代後半に女子学生が参加している会社説明会の様子は教科書にも載っている有名なものだが、実際に普及していたのか?マスコミ向けの宣伝だったのでは?」など、当時の映像やニュースを一つ一つ眺め、検証を進めました。
数時間に渡る打ち合わせを何度も重ねて事実を確認し、大衆文化・法律・技術革新などさまざまな観点から時代の輪郭を想像し、描く内容を精査していったのです。

また、時代考証を行う上では、早稲田大学教授の原克先生にとてもお世話になりました。歴史の事実確認はもちろんのこと、事実の解釈やシーンの選定に迷う度に何度も相談させていただき、専門家の観点からいつも的確なご意見をいただきました。

こうして制作チームと実験室メンバーの知見を集結して、100年を象徴する15のシーンが決まりました。

細部の作り込み。ピクセルアニメーションと、楽曲の魅力

アニメーション制作には、ピクセルアーティストである モトクロス斉藤さんと、監督 大月壮さん のタッグを迎えました。
ドット絵とも呼ばれるピクセルアートは1970〜90年代のビデオゲームで主流だった技法で、どこかノスタルジックな空気を纏うものです。この雰囲気は、幅広い世代の人にとって感情移入しやすいものなのではと考え、この技法でのアニメーションを採用しました。

作画が始まってからは、シーンの背景や各時代を象徴するアイテムといった、より細かい部分の検討を行いました。
デスクに置かれたワープロの形状や、新聞の一面記事の内容、カレンダーの日付や時刻などが、その時代・そのシーンに即しているかを丁寧に検証しながら、少しずつ制作を続けました。

1970年代の新宿駅ホームの画像。満員電車に乗って通勤する人々の様子が描かれている。ホームでタバコを吸っている人もいる。

例えば、1970年代新宿駅ホームの満員電車を描いたシーン。制作途中でメンバーが古い資料を読み解いて当時のJR新宿駅ホームの構造を分析し、画面右上に見える標識に書かれた駅名が方角的には逆であることに気がつき、正しい駅名に変更する…といったできごともありました。

2020年代の働き方の画像。コロナ禍の影響を受けて、自宅でリモートワークしている女性。近くでは男性が、小さな子供をあやしている。

また、一番最後の2020年代のリモートワークのシーン。
今まさに当事者として経験している方も少なくないこのシーンでは、子育て期にいる社内メンバーからの視点ももらいながら、子どもがいる状態で家で働く実態への解像度を高めて画に反映することを大切にしました。慌ただしさを感じる部屋の様子はもちろん、子供の声に反応する女性の表情の微細なニュアンスにもこだわり、修正を重ねました。

これら細かな作り込みの積み重ねが、このムービーのリアリティを後押しするポイントになっていれば幸いです。

そして、ピクセルアートの魅力を最大限に活かしたまま、最後まで何度も表現をブラッシュアップいただいたモトクロス斉藤さんと大月監督には感謝してもしきれません…。
完成数日前に実施したMA編集(ムービーとともに流れる楽曲の音質やバランスを調整する作業)。
その場で大月監督から「このシーン、人々の歩く姿がまだ若干不自然なのでこれから直しますね」と提案いただいた時は、プロの粘りを間近に感じ、圧倒されたのを覚えています。
その後続け様に、「深夜のモーレツ社員」を描いた1980年代のシーンを指して、「ここ、くわえたタバコの灰が落ちいてるの気づいてました?」といたずらっぽく聞かれたのにもドキッとしました(メンバー一同、気づいていましたよ!)。

そして、素敵な楽曲はHIMI さんによる作品です。今回のムービーに合わせてオリジナルで曲を制作いただきました。
繊細ながらも生命力を感じる雰囲気、余韻の残る音楽が、企画のメッセージや懐かしさを感じるアニメーションのテイストによくマッチしています。特に2010年代のシーンに向かう部分の盛り上がりは何度聞いても鳥肌が立ってしまうほど。ぜひ、音量をオンにしてムービーをご覧いただければ嬉しいです。

おわりに

2分間という時間の中にさまざまな人々の知恵や技術、想いを詰め込んだこのムービー。「働くの実験室(仮)」の企画第一弾として発表できたことをとても嬉しく思います。この記事を読んでいただいたことで、映像がより一層味わい深くなっていれば嬉しいです。

また、今回の記事ではムービーができるまでのエピソードを中心にご紹介しましたが、具体的な年代ごとにどのような様子を描いているのか、その時日本では何が起こっていたのかを「“働く”の100年史」特設サイトでも解説しています。よければ一度訪れてみてくださいね。

また、特設サイトでは時代考証を監修いただいた原先生による特別寄稿エッセイも掲載しています。“サラリーマン”が生まれた1920年代の風景を起点に近代社会の「働く」を考察する、読み応えたっぷりのエッセイ(実に14,000字超えの大作...!)なのでこちらもぜひ。

特設サイトへのリンクのための画像。


明日は、企画の骨子を提案すると共に、完成まで制作パートナーとして並走してくださったEPOCHのクリエイティブディレクター佐々木渉さんのインタビューを公開予定です。
私たちとのたくさんの議論にお付き合いいただきながら、こだわりを追求する制作現場をまとめ、作品を完成させてくださった佐々木さん。
インタビューからは、制作現場のリアルな空気を感じていただけるのではないかと。こちらもお楽しみに。


■働くの実験室(仮) 公式サイト
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