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キャスターが取り組む脱・属人化の仕組み。実在しない人事担当『遠藤ひかり』#WORKDESIGNAWARD2021

「働くの実験室(仮)」活動記録 by SmartHR

WORK DESIGN AWARD」は、働き方をアップデートするために奮闘する組織や人を応援したいという思いから創設されたSmartHR主催のアワードです。初開催となる2021年は、6部門を設け、合計で100を超える企業や団体から応募が集まりました。
 
そのなかでニューカルチャー部門に選ばれたのが、株式会社キャスターの実在しない人事担当「遠藤ひかり」です。属人化を防ぐために生まれたこの施策によって、どのような変化が起きたのでしょうか。人事執行役員の勝見彩乃さんに伺います。

勝見彩乃(かつみ・あやの)
株式会社I&Gパートナーズ(現・株式会社アトラエ)、株式会社ワークスアプリケーションズ、株式会社アイアンドシー・クルーズなどを経て、株式会社キャスターで人事・総務管掌の執行役員を務める

共有アカウントを複数人で運用

リモートアシスタントサービス『CASTER BIZ』などのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを運営し、次世代の働き方をサポートする株式会社キャスター。2014年の創業時からリモートワークの可能性をいち早く信じ、誰もがもっと自由に働ける社会を目指してきました。もちろん、社内の業務も全員がリモートワーク。1000名以上のスタッフが、国内外のさまざまな土地で働いています。

そんなキャスターには、毎月多くの新メンバーが入社。それぞれに人事担当者がつき、リモートで連絡を取り合って入社手続きを進めています。ただ、新メンバーからの問い合わせは、雇用契約や就業規則といった似通った内容ばかり。これまでのFAQを蓄積してきたマニュアルによって、おおよそテンプレート的な対応がなされていました。

「そうしたシンプルな仕事について『誰がやっても同じ回答をするだけなのに、担当者が各個に対応する必要があるのか?』という疑問が、人事チームから出てくるようになりました。同じ対応でまかなえる仕事なら、たとえ担当者が休んでも問題ない体制にしたほうがずっといい。そこで誕生したのが、実在しない架空の人物『遠藤ひかり』を、複数の人事担当者が運用する仕組みです」

ひとつのアカウントで対応していく考え方は、共有ペンネームを使って漫画をつくってきた藤子不二雄さんや東堂いづみさんと同じだという

こうして2017年から、人事の契約・更新手続きといった窓口業務は、「遠藤ひかり」というアカウントが務めることになりました。遠藤ひかりという共有アカウントを使って、複数メンバーが業務にあたります。

「『人事担当』『人事ちゃん』みたいなアカウント名にしてもよかったのですが、入社手続きという業務の特性上、人の名前や写真アイコンのほうが親しみを持てて、気軽に問い合わせができるのではないかと考えました。架空の人物を設定することは、運営側の心理的な負荷をやわらげてもくれます。もし何かクレームを受けるようなことがあっても、自分を名指しでいわれるのと、遠藤ひかりが矢面に立つのとでは、感じ方が違うようです」

標準化された対応と、一人ひとりに寄り添う温度感のバランス

新しく入社するメンバーのもとには、遠藤ひかりからさまざまな連絡が届きます。「パソコンが届いたら、このようにセットアップをしてください」「書類のこことここを記入して、キャプチャを送ってください」「クラウドツールを通じて、契約書をお渡しします」――どれもが共通して丁寧な内容ですが、対応している“中の人”は、一人ではありません。

「共有アカウント運営において最も気を遣うのは、人によって対応がブレないようにすることです。もともとリモートワークが主流の会社ということもあり、すでに業務の多くが標準化されているんですね。だから、基本的な対応はそのマニュアルに沿って行えばOK。もちろん、新しく質問が出てくれば、ブラッシュアップしています。入社手続き系の質疑応答が遠藤ひかりアカウントにまとまっていくため、情報の一元化という意味でも大きなメリットがあるんです」

それほどFAQが整えられているなら、対応するのはチャットボットやAIでもいいのでは? という意見もあるかもしれません。しかし、人間が対応しているからこそ寄り添える部分があると、勝見さんは言います。

「よくある内容の問い合わせでも、ときおり個別の質問をもらうことがあるんですね。そういう場面で定型ではない回答が返せることは、やはり信頼感や安心感につながっています。たとえば妊娠している女性の社員から『私は6月が出産予定日です。でも、やや切迫早産の兆候があり、業務に支障が出るかもしれない。はやくから休みに入れるでしょうか?』というような相談も受けられます」

それぞれのプライベートな事情を多く含む問い合わせに、定型の回答はありません。状況をよくヒアリングして、親身に答えを返せるのは、人間が対応しているからこそ。今後さらに高度なIT化が実現する可能性もありますが、そうした温度感も現段階では大切にしているのだといいます。

チームの力で、バックオフィスの業務を“止めない”体制をつくる

共有アカウントのもうひとつ大きな長所は、運営する人材を確保しやすいことです。業務が属人化しないうえ、チャットでどこからでも対応できるため、常勤メンバーすら必要ありません。

「バックオフィスは業務を支障なく進めるための大前提にあるものなので、属人化させない、稼働し続けられる体制をつくらなければなりません。それをキャスターでは、個人の力でどうにかしてもらおうとするのではなく、チームの力で対応していきたいと考えています。現在の人事メンバーは10名以上。働く時間や場所を選ばない仕組みなので、海外に住んでいても大丈夫ですし、『水曜日の午前だけ』といったスポット勤務の方にも業務を任せやすくなっています」

キャスターでは、他にもバックオフィス部門でいくつかの共有アカウントを運営しています。たとえば労務全般を担当する『ロームくん』、勤怠や慶弔休暇などの問い合わせを受ける『勤怠マン』など、それぞれ複数の“中の人”が入り、業務を進めているのです。どうしてそのような仕組みにしているのでしょうか。

何の問い合わせがどこにくるのかわかりやすいから、運営が楽になるんですよね。キャラクターによってタスクをフィルタリングできるし、自分が担当する業務のアカウントだけをチェックすればいい。今いるキャラクターで大体の業務はカバーできていますが、これからも必要があれば、新アカウントを増やすかもしれません」。

『WORK DESIGN AWARD』の審査会では、審査員を務めたホテルプロデューサーの龍崎翔子さんから、こうした講評もありました。

「労務・総務といった、属人化しやすくかつ迅速な対応が必要な窓口業務は、得てして深夜や休日の対応といった帰結へと繋がりやすいですし、クレームや交渉対応など精神的に負荷がかかりやすいものも少なくありません。そんななか、個人に依存する業務を、架空の人物にゆだねることで、チームで情報共有をしながら運用できるなど、働き方の当たり前を変えていくようなクリエイティブな提案だと感じています」

遠藤ひかりが架空の人物アカウントであることはわざわざ個別にアナウンスされていないため、遠藤さんという社員がいるものだと思っている人も少なくないそう。 

「当社はもともとリモートワークが中心で、顔を合わせて働くことがほとんどありません。目の前にいる誰かに質問をするような状況がないからか、架空のキャラクターが対応していることに対しても、ほとんど抵抗がないようですね。あとで遠藤ひかりの実態を知った社員からも、業務効率化につながるとして、好意的な感想が多数上がっています。

また、2021年4月に外部のWebメディアで遠藤ひかりが取り上げられたときには、社外からも反響があったとか。

「『とても面白いし、社員にも気づかれないくらい対応が標準化されていることは見習いたい』『人材の流動性がどんどん高まっているなか、オペレーション業務の属人化防止は大切』といった声もいただいています。架空の人物やキャラクターなど、共有アカウントにチームで対応する仕組みには、さまざまな業種・業態で可能性があると思いますね」

文:菅原さくら 撮影:田野英知

株式会社キャスターの手がけるCASTER BIZのWebサイトはこちら


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