「マイノリティの生み出すカオスが組織を変える」澤田智洋インタビュー#WORKandFES2021
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「マイノリティの生み出すカオスが組織を変える」澤田智洋インタビュー#WORKandFES2021

「働くの実験室(仮)」活動記録 by SmartHR

マジョリティとマイノリティ、健常者と障害者、男と女──コインの裏表のような二元論で語られることが目立つ多様性の問題。しかし実は、それぞれの事柄の間には無数のグラデーションがあり、その一つひとつに思考を巡らせることが必要になります。それをなおざりにして形だけの多様性を実現したとしても、単なるパフォーマンスにしかならず、真の意味で創造性に満ちた組織をつくり出すことはできないでしょう。そして、コインの裏表はちょっとしたきっかけで裏返ることも知っておかなければいけません。自身のマイノリティ性に気づいたら、不慮の事故に遭遇したら、性的自認が変化したら。いつ訪れるかもわからない不確実性と向き合うための知恵を身につけるために「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」について考えます。

※この対談記事は、2021年12月11日に開催されたオンラインイベントWORK and FES 2021のノベルティ「WORK and FES 2021副読本」に掲載しているものです。そのほかにも、多彩な面々のインタビュー記事が掲載された副読本のプレゼントキャンペーンを3/4(金)〜3/31(木)まで実施しています。ご希望の方はこちらのフォームよりご応募ください。

マイノリティの生み出すカオスが組織を変える

企業や組織が長期的に持続・成長していくために、鍵を握るといわれるD&I。しかし、ダイバーシティというお題目ばかりが先行し、本当の意味で多様性を組織に実装できていない側面もあるのではないでしょうか。たとえば、障害者雇用。障害者の法定雇用率をクリアするためにとりあえず採用す るだけでは、当事者と仕事内容のミスマッチが起きてしまう。そう指摘するのは、人間のさまざまな“弱さ=マイノリティ性”を可能性として捉える「マイノリティデザイン」を提唱する澤田智洋さんです。チームに多様性を実装し、力に変えるためにはどんな考え方が必要なのでしょうか。

澤田智洋(さわだ・ともひろ)
コピーライター・世界ゆるスポーツ協会代表理事。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後、17歳で帰国。2004年、広告代理店入社。2015年に「世界ゆるスポーツ協会」を設立。一般社団法人障害攻略課理事も務める。著書に『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)『マイノリティデザイン』(ライツ社)がある

──日本企業においてもD&Iがようやく尊重されはじめています。しかし、この「多様性」という言葉の意味を履き違えてしまうと、かえってD&Iから 遠ざかってしまう懸念もあるように思えます。

「多様な人材」の捉え方次第だと思います。多様性には大きく2種類あるんですね。ひとつは「人口統計学的な多様性」。これは人種や性別、宗教観、階級のような数で表せるものです。もうひとつが「認知的な多様性」。こちらは物の見え方や考え方に関わる多様性です。日本の企業が「多様性を強化しよう」となると、どうしても前者にばかり意識が向いてしまう。

──「今のチームは男性しかいないから、女性を3人加えよう」となるケースは多いですよね。

はい。でも、残念ながらそこで現在のチームにいる男性メンバーと考え方が近い女性をアサインしても大きな変化は生まれません。もちろん、社会全体として「人口統計学的な多様性」を担保していく必要はありますが、メンバ ーの認知も踏まえたうえでチームビルディングすることのほうが重要なのではないでしょうか。

──さまざまな人材がチームにいることによってどのような変化があるのでしょうか。

マジョリティの視野だけでは限界があるということです。チームに同じような属性の人しかいないと見えている世界が限定されてしまうため、仮にプロジェクトに“致命的な粗”があったとしても気づくことさえできません。また、多様性のないチームはイノベーションが起きにくいんですね。

たとえば 、自動車メーカーで新しい車を開発することになったとしますよね。同じメンバーでばかり会議をしていると、これまでの延長線で話を進めてしまうので進化が止まってしまうんです。しかし、ここにマイノリティの視点が加わると「いや、車って本当にそれでいいの?」と、車自体の在り方に対して問いかけがはじまります。

以前、自動車の開発チームの会議に寝たきりの友人を 連れていったとき、「ハンドルがいらない車をつくってほしい」という意見が出て、そこから大いに議論が盛り上がりました。マイノリティの思わぬ視点がチームメンバーにとって新鮮で刺激的だったようです。

──完璧だと思っていたものにも、改善・進化の余地があると気づかされるわけですね。

そもそも現在の車は、そのほとんどが成人男性の体格をベースにシートや安全装置が設計されているんですね。結果、事故が起こったときに男性より身体が小さい傾向のある女性の重症化リスクが高まってしまう。

もし、安全性の実験をする現場にもっと多くの女性がいれば、体格に関係なく重症化を避けられるようなアイデアが生まれ、車自体がさらに進化していくかもしれません。そうやって違いを認め合って新しい視点を増やすことを、僕は“ソーシャル視力”と呼んでいます

日本の企業活動には、カオスが圧倒的に足りていない

──そのソーシャル視力が高まれば致命的な粗を見落とすこともなくなり、 誰にとってもよりよい社会につながっていきそうです。

そうですね。そもそも物事をよくするためには、多様な意見やアイデアが飛び交う、ある種の“カオス”が必要です。しかし、ここ30年くらいの日本の企業活動には、このカオスが圧倒的に足りていません。今ある体制やビジネスモデルをいかに維持するか、にとらわれるあまり、大きな変革が起こっていないように感じます。

古い例になりますが、アメリカのマサチューセッツ工 科大学に「Building20」という、さまざまな分野の研究者が集まる研究棟が存在しました。第二次世界大戦中に建てられた簡易的な施設なのですが、突 貫工事でつくられたために内部構造が複雑で、迷子になる人もいたらしいんですね。ただ、さまよっているうちにまったく知らない研究室に迷い込み、思わぬ出会いが生まれるというセレンディピティをもたらしました。結果として、多くの研究者が業種を超えて混じり合ったカオスな空間から数多くの 偉大な研究が誕生することになったんです。

──あえてカオスな環境をつくり出すことが大事であると。

はい。それは組織のチームビルディングにおいても同じことだと思います。 チームが固定化されると、人間関係を気にしすぎるあまり忖度が生まれます。結果、表向きは仲よしチームでいられるかもしれませんが、斬新なアイデアにはなかなかたどり着けなくなるわけです。しかし、そこに先ほどの自動車メーカーの会議のように“忖度しない当事者”を放り込むと、一気にチームの視野が広がり、議論が活性化するんです。ですから、これからは意図的にBuilding20のようなカオスをプロジェクトごとにつくっていくことが必要ではないでしょうか。

──そのカオスな状況を生み出す存在として障害者が重要な役割を担うと思います。企業における障害者雇用は現状どうなっているのでしょうか。

D&Iが進んでいる一方で、企業の経営者と障害者雇用について話していると 気になることもあります。障害を持つ当事者に対して、企業が「施しの目線」を持っていることです。経営者の話のなかでよく言葉に出てくるのが「○○をしてあげたい」という表現。してあげたい、という時点で当事者を下に見ているように感じますよね。

──なぜそのような状況が生まれてしまうのでしょうか。

障害者との接し方がわからないんだと思います。雇用をしても過度に気を遣ってお客さま扱いしてしまったり、逆に必要なケアを提供することができなかったりするケースがあるんですね。また、「どのような仕事をお願いしていいかわからない」という声もよく耳にします。だから、人事を担当する人には「この人ならこういう仕事ができそうだ」という豊かな想像力が必要になるわけですが、それができずにミスマッチが起きると、企業も当事者も不幸になってしまう。障害者が安定した職に就くためには、その当事者が包摂される社会になることが望ましいですが、保護するだけでなく、「うまく活かす」という視点も同時に必要なのではないでしょうか。

──多くの障害者が「自分の能力を活かせる仕事」に就くためには、どんな視点が必要でしょうか。

個人的には、数の追求より質の追求が大事だと思っています。小さくてもいいから、まずは一人ひとりの当事者と一つひとつの仕事がバッチリ噛み合い、企業と当事者が深いところで満足できたという事例をつくること。私自身も企業と当事者をマッチングする際は、このことを強く意識しています。

たとえば、宇宙系の事業を行うベンチャーに対して、複数の当事者をご紹介したことがあります。企業側が求めていたのは「衛星を打ち上げるロケットに、何を持ち込むか」というアイデアで、それこそ宇宙レベルの柔軟な発想が必要でした。そこに多様なソーシャル視力を持つ当事者の方々をアサインすれば、バイアスがかかっていないぶん、思わぬ答えが出てくるのではないかと。

障害のある方に対しては、どうしても単純作業を当てはめがちなのですが、そこではクリエイターとして活躍してもらえるかもしれないという期待感がありました。

はみだす人は永遠に出現する

──先入観にとらわれず、まずは仮説を立てて試してみることが大事なのかもしれませんね。

遠回りに感じられるかもしれませんが、こうした「障害者の特性と仕事を照らし合わせるとどうなるか」というデータをひとつでも多く溜めていくことが大事なのではないでしょうか。それによってパターン化できるかどうかは現時点ではわかりませんし、パターン化してしまうことの危険性もあると思 います。ただ、少なくとも企業と当事者の双方にとって幸せな働き方を模索するヒントにはなるはずです。

──新たな視点を受け入れていくことで、これまでマジョリティだった人が枠からはみだしてマイノリティになってしまう可能性はないのでしょうか。

これに関しては、はみだす人は永遠に出現すると思うんです。だから、大事なのは歩みを止めないことしかないんですよ。わかりやすい例でいうと、視覚障害者に向けて点字ブロックを敷いたことで、車椅子ユーザーが不便を被ることがあります。誰かにとっての進化は誰かにとっての退化という、まさにコインの裏表のようなことはまぬがれないんですよね。

100点満点の社会環境や職場環境の実現が難しいからこそ、「みんなにとっての70点ってなんだろうね」と考え続けるしかありません。だからD&Iは、企業にとっても、私たちにとっても、ある種の命題なんです。

文:榎並紀行 イラスト:星野ちいこ

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