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勤務日数や時間を自由に選べる。コミュニティサロン と和が実践する「19種類の働き方」#WORKDESIGNAWARD2021

WORK DESIGN AWARD」は、働き方をアップデートするために奮闘する組織や人を応援したいという思いから創設されたSmartHR主催のアワードです。初開催となる2021年は、6部門を設け、合計で100を超える企業や団体から応募が集まりました。

そのなかでワークスタイル部門に選ばれたのが、コミュニティサロン と和の実践する「19種類の働き方」。結婚、妊娠、産休・育休、子育て、親の介護など、ライフステージに合わせて19種類の働き方から雇用形態・給与体系などを6カ月ごとに変更できるようにした制度です。

まだまだ雇用環境が整っていないといわれる美容業界。そこに一石を投じることになったこの取り組みは、どのようにして生まれたのでしょうか。代表・チーフディレクターの小池由貴子さんにお聞きします。

小池由貴子(こいけ・ゆきこ)
「コミュニティサロン と和」代表・チーフディレクター。山野美容専門学校卒。美容師200人が所属する、都内17店舗のチェーン店でエリアマネージャーに従事。2011年7月に「訪問美容 と和」を立ち上げて独立。2014年2月には、年齢、障がい、関係なく誰でもご利用できる「コミュニティサロン と和」を巣鴨地蔵通り商店街にオープン。同時に美容業界の労働環境の改善に取り組み、美容業としてはじめて東京ライフ・ワーク・バランス認定企業に選出される

美容業界の厳しい労働環境を“改革”して、未来につなげたい

美容業は、長時間労働や低賃金といった労働環境の悪さにより、早期離職や美容師自体を辞める方が少なくありません。事実、小池さんが美容師として働きはじめたころは、健康保険や健康診断がなかったり、有給があることを知らされていなかったり、という店舗も珍しくなかったそうです。

「美容業界には、先生や先輩に教わって学び、地道に技術を身につけていく徒弟制度のような風土があります。昔は、住み込みで働く人も少なくありませんでした。最近はそこまでの店は見ないですが、新人が業務や鍛錬で苦しみやすい状況は残っています」

新人が一人前のスキルを身につけるためには、どうしても練習が必要になります。これまでは早朝や夜間など、営業前後の時間が練習に充てられていました。

それでは長時間労働になるのは当然のこと。小池さんが経営すると和も、5年前まではそれに近しい状況でした。長時間労働が常態化し、残業代の未払いなどもあって、一時はスタッフが半分以上も退職してしまったそうです。「美容師だから、働き方なんて変えられないですよね」というスタッフの言葉が、とても印象に残っていると小池さんは振り返ります。

「私自身、20年以上も美容師をやっているけれど、同級生はほとんど残っていません。結婚や出産、介護、病気など退職の理由はさまざまですが、そうした事情を持つ人が働きたくても働けないような環境に問題があると思います。ライフステージが変わっても、働き続けられる環境を整えたい。美容師の新しい働き方を見出していきたい。そう強く感じ、働き方改革に取り組みました」

「希望に寄り添った働き方の提案」と「スタッフの意識改革」を両輪で

そうして生まれたのが「19種類の働き方」。自分の希望する勤務日や給与に合わせて、19種類の選択肢から雇用形態を決められる制度です。「週5日8時間+残業可+土日出勤なし」「週3日7時間以下+隔週で土日出勤」など、日数や時間はとてもフレキシブル。わかりやすいフローチャートが用意されており、半年に一度、働き方を変更することもできます。

と和で取り組んでいる「19種類の働き方」の一覧。勤務日数や残業のあり・なしなど、自由に組み合わせて働くことができます

また、一般企業の制度を見習って有給休暇やリフレッシュ休暇、子育て・介護・ボランティア休暇などを増やしていきました。

「よく勘違いされるのですが、これは子育て世代のためだけの制度ではありません。美容師をやりながら資格試験の勉強をしたり、体力がないために勤務日を少なくしたり。それぞれが抱える事情や希望に寄り添って、お互いに理解し合えるサロンでありたいと考えています」

ところが、制度ができた後に、もうひとつの大きな壁にぶつかります。業界全体にはびこる旧態依然とした働き方に慣れてしまい、スタッフたちの意識がなかなか変わらなかったのです。

「朝から晩まで働いて、みんなで一緒に帰る。そうした働き方を当たり前としていたスタッフたちは、新しく制度ができても、なかなか使おうとしませんでした。でも、早く帰るのは悪いことではないし、人によって働く時間が違っていてもいい。それを繰り返し言い続けることで、少しずつ意識が変わっていったように思います。毎月の定例会議でも、それぞれの有休消化率やシフトなどを見ながら『あと〇日休んでください』『〇〇さんは今月からこういう働き方になります』といった情報共有を心がけました」

働く時間を短くしても、業務効率化で売り上げはアップ

誰もが自由に休みを取れるようにしたら、店が回らなくなると考える人は少なくないでしょう。小池さんもその懸念を抱き、業務にさまざまな工夫を加えました。

たとえば、タオルの片づけやクロス畳みといった雑務は、営業終了後まで放っておかれがちな作業です。しかし、それでは最後まで残ったメンバーに負担が偏ってしまいます。そこで、1日の細々としたタスクを「18時まで/19時まで/営業時間内に随時(定時以降の作業は禁止)」と時間帯別に分類してリスト化。営業中に手の空いたタイミングで、どんどん進められるようにしました。時短で働くメンバーも「ここまで終わらせています」と言えるため、いっそう気持ちよく帰れるようになったそうです。

「さらに接客業として重要だったのは、予約の調整です。自分の決めた時間で働くためには、担当するお客さまの予約を出勤時間内に収める必要があります。そこで当社では、お客さまにご相談して、なるべくアイドルタイムができないように予約を調整していただいているんです。たとえば、10時30分からカットをご要望のお客さまがいたとして、10時か11時に調整できないか伺ってみる。そうやって、お客さまと一緒に働き方改革に取り組んでいます。こうした積み重ねを続けてきたことで、結果的に売上も伸びています。業界慣習的にとてもできないような気がしていたけれど、やってみればなんとかなるものなんだな、と思いました」

どうしても生まれてしまったアイドルタイムには、これまで営業前後にやるしかなかった練習時間に充てているとか。また、落ち着いてやらないといけない練習については、営業時間をブロックして行うこともあるそうです。

「予約より練習を優先することは、短期的に考えたら営業機会の損失になるかもしれません。でも、練習も仕事の一環というのが私たちの考え方。技術を磨けばお客さまにも還元できるし、また別のお客さまのご予約につながるからです。たとえば、着付や訪問美容の社内講習を営業時間内に行ったことで、9割のスタッフが技術を身につけることができました。そんな美容室は、珍しいのではないでしょうか」

「働き方」を優先するサロン。「働き方は変えられる」という決意

こうして勤務環境が大きく変わったことで、さまざまな成果が表れました。2016年度に40時間以上あった月間平均残業時間は、2020年度で10時間32分まで減少。年間で1247時間から496時間まで減らすことに成功しました。

有給休暇の取得率も、2016年の30%から2年間で100%まで上昇し、現在もその状態を保ち続けています。また、正しい勤怠管理を徹底するために「Smart勤怠管理Ⓡ」というオリジナルの勤怠を管理するアプリも開発。GPSによって出退勤を自動打刻する仕組みで、1分単位で時間外労働手当をつけています。

「当社では売上や指名数などで給与を変動させていません。そのやり方だと、短時間や少ない日数のスタッフが不利になってしまいます。そうではなく、時間に制約のあるスタッフでも安定した給与を保証できるように、技術の種類や品質の高さで評価するようにしているんです」

近頃は、不妊治療と仕事の両立支援や男性の育児休暇促進、フレックスタイム制度、週休3日制度の整備に向けて、また新たなチャレンジをはじめています。

「美容業界の働き方改革は、はじまったばかり。『私たちには無理』だと思わず、ぜひどの店舗でもチャレンジしてみていただきたいと思っています。まずは理想に近づくためにいろんなことに取り組んでみて、会社に合わせてカスタマイズしていけばいいと思います。働き方は変えられる。その決意で私たちは取り組んでいるんです」

文:菅原さくら 撮影:田野英知

コミュニティサロン と和が取り組む「19種類の働き方」の詳細はこちら


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