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読む、 #ウェンホリ No.15「多様な人が住む街で、多様な意見と向き合うために」

ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

第15回では、アナウンサーの堀井美香さんと東京都杉並区長の岸本聡子さんが、「それでも、私たちは異なる意見を持つから問題を解決できる」をテーマに語り合いました。

異なる意見を持つさまざまな人たちの意見に耳を傾け、丁寧に共通点を探していくために必要なものとは?

話し合いのなかで共通項を増やしていく

堀井:今回は「それでも私たちは異なる意見を持つから問題を解決できる」ということで伺っていきたいなと思っております。昨今ですね、多様性やダイバーシティという言葉を耳にする機会が増えました。

実は似た意見を持つ人が集まる画一的な組織というのは変化に弱くて、死角に気づきにくいといった弱点が指摘されています。それを補うために性別や年齢、価値観などが違った個人を組織のなかに幅広く受け入れていくことで、複数の視点を持って問題解決を目指そうという動きがあるんですね。

一方で異なる意見をまとめていくには大きな労力がかかります。岸本さんが取り組んでいる区政はその最たる例で、多種多様な意見があるなかで物事を決めていく難しさに直面されているのではないかなと思っておりますが。区長の仕事というのはまさに、区民の声を聞くことも大事だと思いますし。それから岸本さんが掲げた6つの主要な政策にも「『対話』を大切にしたまちづくり」という内容が含まれているので、このあたりを伺っていきたいんですけれども。岸本さんが対話の重要性というのを意識したきっかけというのはどういうことになりますでしょうか?

岸本:これは特に杉並に感じたことなんですけども。まさに本当にいろいろな意見があるというなかで、実はけっこう亀裂というか、対立というのでいくつか、大きなテーマがあったんですね。そのひとつが子供の居場所である児童館。高齢者の居場所である、杉並ではゆうゆう館と呼ぶんですけども。そういったものをこれからどうしていくか? それから、保育園の待機児童をゼロにするっていう努力がかつて、10年間あったんですけども。ですので私はやっぱり異なる意見の人たちがいるというのがまさに街だし。それ自体が悪いことでは全然ないので。

では、どのように進めていくか? っていうことはやっぱり丁寧に考えたり、話したりして。で、話し合っていくなかでちょっとずつ共通項を増やしていくみたいな、そういう作業をやっていかなきゃいけないんじゃないかなっていうふうに思ったのが、まさにその選挙でトップが、リーダーシップが変わることでそのやり方を変えられるんじゃないか? って思ったところがあります。

堀井:しっかりと意見を聞いていくっていうことですよね。

岸本:そうですね。

堀井:最初、区長さんになられて、議会に飛び込んで行くわけですけれども。そのとき、ご自身はどういう状況だったんですか?

岸本:今、第3回定例会っていうのがちょっと前に終わったんですけども。はじまったときは地方議会というものがどういうふうに進むのかっていうことも、実はよく知らなくて。国会の答弁というのは割とテレビとかで見るじゃないですか。でも地方議会って見たことないというか。

堀井:そうですね。ケーブルテレビで覗くぐらいですね。

岸本:そうそう。で、私もさすがに傍聴には行っていたんですけど。たとえば代表質問があって、一般質問があって、その後に委員会があって……とか。そのへんのことから、本当にすべてがはじめてだったんですね。でも、それも日々、やっていくなかで、もちろん小さな失敗もたくさんありましたけども。やっぱり日々、区の職員の幹部の人たちがいちばん私を直接的には支えてくれるんですけども。本当にいろいろ丁寧に教えてもらって。事前の質問とかも、答弁を準備したりすることも職員と一緒にやってきたっていう。そういう中で1日を乗り越えていくことで。

「ああ、こういうふうなんだ。今日がこうだったから、明日はこうか」みたいな感じで少しずつわかっていったっていうのがありまして。きっと職員の人も、傍聴に来てくれた人たちもみんな、私以上にヒヤヒヤしてたんじゃないかなと思うんですけど。でもそこは、「わからない」っていうことも含めても誠実に一生懸命やるしかないかなというような。割と素直にやっていけば、そんなに悪くはならないかな、みたいな。そういう気持ちでしたね(笑)。

とにかく対話を重ねて、残すものと残さないものを考えたい

堀井:区長として決断していくという場面もたくさんあるかと思うんですけれども。たくさんの方が話し合いを進めていくなかで、どこかで折り合いをつけて。まあ説得したり、説明したりっていうこともしなければいけないわけですよね?

岸本:いや、実はね、まだそこまではいってないというか。

堀井:ああ、なるほど。今はまだ対話をして?

岸本:そうなんです。で、本当にはじめての議会ですし。この議会っていうのは去年度、どうだったのか? っていう、決算議会と言うんですけども。私、そういうことも全然知らなかったんですよ(笑)。そういう議会なので。これからの話っていうのは2023年……それは第1回目の議会で、主に予算という形で出てくるので。これからなんですね。ただ、やっぱり選挙の公約で言ったこととか、これは答弁もしたんですけども。何か全部を一気にやろうとか、一気に変えようとか、今までやってきたことを全部変えていこうっていうことではまったくなくて。いいものは残して、よくないものはあらためて……っていうことをやっていきたいんですっていう姿勢なんですね。

堀井:対話というのは具体的にはどういう形で今、やられているんですか?

岸本:これはですね、もうさすがにいろんなことがゆっくりとはいえ、就任してからすぐにこの「対話をする」っていうことに関してはそれこそ、そんなにお金がかかるわけでもないし。たくさんやらなきゃいけなくて、時間もかかるので、割とすぐに職員の人たちがそういうフレームをつくってくれて。私の「聴っくオフ・ミーティング」というのをはじめたんですよね。で、これの最初のテーマは「子供の居場所」。「杉並らしい子供の居場所」っていうテーマで無作為抽出で……この「無作為抽出」っていうのはもう、くじ引きですね。バランスとかを考えて2000人ぐらいの人にはがきを送って。そのなかで「区長と話したい」っていう人に来てもらって。あとの半分の人は自分で公募っていう形で。そういう会を最初にやりました。

で、その2回目のテーマもやったんですけど。それは「自転車に乗りやすい街・杉並」っていうのを掲げてまして。そこにはやっぱり環境問題だとか、車社会からの脱却とか、いろんな思いを込めているんですけれども。それを人にも環境にも優しい自転車っていうことをテーマに2回目をやって。これもたくさん応募があって。こんな、もう厚さが3センチにも4センチにもなるぐらいの意見もいただいて。それで2回目の対話をやったり。そういうことを10回ぐらい、年間を通じてやっていくっていう。

区長とはいえ、自分1人じゃ何もできない

堀井:テーマを持って、されているという。初登庁がね、自転車で岸本さんがいらして。区役所のところに自分の駐輪場があるっていうのもお話を伺いましたけれども。

岸本:そうなんですよ。私にとって自転車はもうまさに、なんでしょう? いちばん便利だし、合理的な交通手段で。好きだし。私の家から区役所まで17、8分で自転車で行けるので。合理的っていうだけじゃなくて。まあ多少の運動にもなりますし。私にとって普通のことだったので、なんでそこまで自転車がフィーチャーされたのか? って、いまだにあれなんですけども。でも、とはいえちょっと象徴的なのは公用車……区長って専用の公用車というものを持っているケースが多いんですね。それは杉並もそうだったんですけれども。

それは、そういう特権というのは私はいらないんじゃないかと思って。区の所有してる車を使って、公務で必要な時、移動する時に使うのはいいんですけど。自分の家から区役所までとかって、だいたいローカルなので。区内だったらどこからでも通勤できるわけですよね。電車でも、自転車でも。なので、「これは行きも帰りも、別にいらないだろう」って思って。そういったこともあって、まずは専用の公用車を廃止っていう。それも公約に掲げていたので。それはまさにすぐにできることなので。

堀井:初日から(笑)。

岸本:はい。今でも毎日、自転車で通っています

堀井:「聴っくオフ・ミーティング」って先ほど、おっしゃいましたけど。「キックオフ」の「聴っく」っていうのが「聴く」なんですね。

岸本:そうなんです。これを考えてくれたのも職員で。なんか、オヤジギャグだなんていう話もありましたけど。私は言ってないですよ? 参加者からはあったりしたんですけども。そういうのも嬉しいですよね。みんな、職員の人が……職員の人たちも議員さんと同じように、もう戦々恐々だったと思うんです。やっぱり変化っていうのは……杉並区って割と大きな組織で。働いてる人が6000人ぐらい、いらっしゃるんですね。

堀井:区役所のみなさんが? そうですか。

岸本:そういう……まあ区役所の本庁だけじゃなくて、いろんな、保育園とかも含めてなんですけれども。福祉事務所とかね。たくさんの人が働くなかで、とにかく得体の知れない人が来るっていうのはそれは議員さんだけじゃなくて、職員さんもやはりみなさん、そう思っておられたんだと思うんですね。なので、それでも職員の方たちは「リーダーシップが変わったら、自分たちはそのリーダーシップのもとでやっていくんだっていう、公務員としての自負とか、倫理というものがある」っていうことも言ってくださったりして。

それで私が「対話をはじめたい」って言ったときに、区長だっていったって、やっぱり自分1人じゃ何もできないんですよね。そういうのを枠組みをつくってくれて、場所をとって。それから2000人の無作為抽出ってなると、地域とかジェンダーとか年齢とかのバランスも考えて。そして葉書を出してとかいうような、そういうかなり細かい作業がたくさんある。それをやってくれたのも、みんな職員なので。本当にそこは嬉しいですよね。

堀井:対話できる場所があるって、とても素敵だなというふうに思いますけれども。区のトップとして、意見の違う人たちとどう向き合うかですとか、その対話という面に関しましては、企業で働く方たちにも参考になったのではないでしょうか?

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ


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