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障害や配慮事項を可視化して、就業マッチングに活かす。株式会社アクティベートラボの「障害者のできる仕事エンジン『UnBi(仮)』搭載障害者雇用サービス」 #WORKDESIGNAWARD2022

「WORK DESIGN AWARD」は、働き方をアップデートするために奮闘する組織や人を応援したいという思いから創設されたSmartHR主催のアワード。2回目の開催となる2022年は、全7部門(公募は6部門)を設け、合計で100近くの企業や団体から応募が集まりました。

そのなかでダイバーシティ&インクルージョン部門を受賞したのは、株式会社アクティベートラボの「障害者のできる仕事エンジン『UnBi(仮)』搭載障害者雇用サービス」。障害を持つ求職者と企業の懸け橋となり、障害者雇用を促進する障害者翻訳システムです。

このサービスが生まれたきっかけは、アクティベートラボの代表・増本裕司さんが病気の後遺症で障害を負ったことでした。なかなか就職できず、働くやりがいを奪われた経験から、障害者雇用を変えたいと立ち上がった増本さんの奮闘とは?

増本裕司(ますもと・ゆうし)
大学卒業後、マンションディベロッパー、大手広告代理店、ITベンチャーなどを経て、大手通信会社に勤務。36歳のときに脳出血で倒れて障害者となる。その後、再就職を試みるが不採用が続き、ようやく就職できた会社でも戦力として期待されず、障害者の立場に立ったサービスを創出するべくアクティベートラボを起業する


働きたいだけなのに、障害者はそれが叶わない

 
増本さんが脳出血で倒れたのは、36歳のときのこと。なんとか一命をとりとめたものの、左脳にダメージを受けたことで、右半身麻痺と言語障害が残りました。病院のベッドで目が覚めたとき、妻の名前さえ出てこない自分に大きなショックを受けたといいます。

「でも、本当に苦しんだのはそれからでした。障害者年金を受給するようになったものの、それだけでは生活がギリギリで……。また、世の中と接点を持つために働こうと考えましたが、就職ができないんです。倒れる前まで大手の広告代理店や通信会社でバリバリ働いて、それなりのビジネススキルはあるはずなのに、書類審査の段階で無視されることがたくさんありました」

長い就職活動の末に掴んだのが、ある建設コンサルタント企業の「障害者アルバイト雇用」の枠。久しぶりに社会で働けることがうれしくて、増本さんは片手でも締められるネクタイを買い、意気揚々と出社したそうです。ところが、何日経っても増本さんに仕事は振られませんでした。
 
「上長に『どの仕事をしましょうか?』と声をかけても『君は座っているだけでいいから』と言われてしまうんですよ。そうして気づくわけです。従業員数が一定以上の企業には、2.3%の障害者を雇用する義務があり、自分はその数字を満たすためだけの道具なのだと。そんなふうに扱われて、その場にいるだけでお給料をもらっても、うれしくないんですよね。できる仕事に精いっぱい取り組んで、誰かに貢献することが、仕事の喜びだと思うんです」

障害を持ってもこの喜びを追求していくためには、抜本的なシステムの改革が必要だと増本さんは感じたそうです。そして、日本の障害者雇用を変えたいと本気で考えるようになりました。

障害をわかりあえなければ、仕事を振れない/振ってもらえないのは当たり前

 障害者雇用の現状に憤った増本さんは、かつて一緒に仕事をした事業家のひとりに、自身が感じた憤りを打ち明けてみることにしました。すると彼は「そんな構造的な問題があるなんて知らなかった」と協力の姿勢を示し、1年間にわたるヒアリングがはじまったそうです。そしてある日、1本の企画書が増本さんに提出されました。
 
「その企画書には、これまで私が感じていた問題や、解決するための概念が、すべてまとまっていました。そして彼は『この計画に足りないのは社長だけだ。だから、お前がやれ』と提案してきたんです。ただ、当時の私はまだ障害が強く残っていて、言葉や歩行もおぼつかない状態でした。こんな自分が社長をやれるだろうかと1週間ほど悩みました。でも、今ここでやらなければ、あとに続く誰かが自分のように辛い思いをする。そう考えて、起業を決意したんです」

そうして株式会社アクティベートラボが誕生し、具体的なサービスづくりがスタートしました。増本さんは、これまで以上に障害者を知るために、近隣の障害者スポーツセンターに足を運び、障害を持つさまざまな人たちと接点を持ったとか。そして、あることに気づきます。

障害者雇用の場ではすべて一緒くたに扱われがちですが、障害には大きく分けて身体・精神・知的・発達の4種類があり、項目ごとに配慮する事項がまったく異なるんです。ここに、不幸なミスマッチを生む原因があると考えました。また、障害の種類だけでなく、障害の重さによっても、ステータスは変わるんです。身体障害があっても知的な遅れがなければデスクワークは普通にできますし、軽い知的障害なら免許の取得や工場作業に問題がなかったりするケースもあります。個々の違いを分類して、就職活動でうまく伝えることができたら、職場での配慮事項や任せる仕事がわかりやすくなるはず。そうすれば、障害者でも仕事で活躍できる人が増えるだろうと考えました」
 
とはいえ、サービスをつくっていく資金はほとんどありません。増本さんは杖をつきながら政策金融公庫に通い、不自由な言葉で事業計画書を説明する日々を続けました。そして、5度目の訪問でようやく熱意が実を結び、融資が決定。その軍資金をもとに身体障害者同士をつなげる「OpenGate」というSNSを制作しました。その後に開発されたのが、今回受賞した『UnBi(仮)』。障害を持つ人が自身の症状を入力すると、職場で必要な配慮事項やできる仕事が表示されるシステムです。

障害者雇用の面接は、コミュニケーションがとても難しいんです。相手がどんな障害を持っていて、何ができて何ができないのか、企業側もストレートに聞きづらい空気があるように思います。でも、義務的に枠を埋めるだけではない障害者雇用をしようと思うなら、障害の種類や重さの確認は必須ですよね。そこがわかり合えなければ、企業側も上手に仕事が振れませんから。そこで活用してほしいのが『UnBi(仮)』です。このエンジンを活用すれば、企業は面接を受けにきた人の障害に関する情報を事前に受け取れるので、面接の場では相手のスキルや人柄に焦点を当てた会話ができるようになります
 
『UnBi(仮)』は、いわば翻訳機だ」と増本さん。たとえば、足の病気で車椅子に乗っている身体障害者は、段差がある場所は苦手だけど、腕に重い荷物を持つことができます。オフィスやトイレも、ある程度自由に使える人が少なくありません。対して、同じ足の障害でも、電動車椅子に乗っている人は移動する際にある程度の幅が必要なため、狭いオフィスで働くことが難しくなります。また度合いによっては、産業医が常駐している企業でしか働けないケースも。『UnBi(仮)』は、そうした障害の情報を整理し、企業に伝わる言葉へと翻訳する役目を果たすのです。

企業にとっての障害者雇用を「義務」から「戦略」へ

 2020年にリリースされた『UnBi(仮)』のベータ版は、さっそく2社の採用活動に導入されました。アクティベートラボ社内でも採用エージェント事業で役立てられ、約20名が外部企業への就労に成功しているそうです。しかも、『UnBi(仮)』を介して就職した方々は、1年経った今でも離職ゼロだとか。障害者雇用は入社したその月に退職になることも珍しくなく、半年続けば「よくやった!」と喜ばれる世界。どうしてこのような結果をもたらすことができたのでしょうか。
 
「当社の紹介で就職した方々には、半年以上のサポートも提供しています。たとえば、持病で飲んでいる薬があって午前中は本領発揮できない方だったら、企業側とのオンボーディングであらためて『重い案件はぜひ午後にご相談ください』と細かいフォローを入れるんです。自分自身、障害者アルバイト雇用で働いていた会社ではずっと放置され、しかも誰にも相談できなくて、辛い思いをしましたから。そんな思いをする人をひとりでも減らしたいんですよね

今後は『UnBi(仮)』をクラウド化し、より多くの企業に使ってもらいたいと増本さん。入力項目と就業マッチングの仕組みについては、特許も取得しています。
 
障害の内容と配慮事項さえわかれば、障害者と健常者は対等に付き合えると思うんです。障害者も、これまでは自分の障害や苦労をドラマチックに語ってしまう場面が多かったけれど、本当はもっとフラットに話せるようになりたい。そうしてお互いがわかり合えれば、障害者も生きがいとなる仕事に出会えますし、企業側も障害者雇用が『義務』でなく『戦略』になっていきます。そういう時代がこれから来ると、私は信じています」

文:菅原さくら


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