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読む、 #ウェンホリ No.12「他人にボツにされても、自分はボツにできない」

ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

第12回では、アナウンサーの堀井美香さんとドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんが、「ドラマづくりから学ぶ、明日からマネしたい企画術」をテーマに語り合いました。

数々のヒットドラマを手がけている佐野さんですが、30代前半までは企画を出してもボツばかりだったとか。それでも企画を考え続けるために佐野さんが試みたのは、自分以外の誰かを巻き込んでいくスタイルの確立でした。

書いた企画の数は3ケタ。ボツだらけだった20代

堀井:2016年から企画を立ち上げて、6年越しの放送という。2022年の10月24日。この日から月曜日、夜10時からフジテレビ系列での放送です。

以前、TBSでドラマをしていた方が6年かかって今度はフジテレビで放送という、この『エルピス —希望、あるいは災い—』というドラマなんですけれども。こうやって企画を長い年月かけてやっていくものもあれば、佐野さん、たくさんの企画を出されてるかと思うんですが。もうほぼ通ってるっていうイメージがあるんですけども。

佐野:ほとんどボツです。

堀井:本当ですか?

佐野:本当に、もうボツだらけで。そうですね。転職してからは割とコンスタントに企画を通させてもらってる部分もあるんですけども。もう20代、30代前半とかは、出しても出しても……特に生きづらい人たちに背中を押すようなドラマをつくりたいと思って。そういうことを企画書に書くと「本当に生きづらいの? 俺は生きづらくないよ」って編成のボスに言われたりして。「そうか……」みたいなこととかもありましたし。

あと、そうですね。やっぱり「企画が狭い」って、よく言われて。たぶん私は「自分が見たいものをつくりたい」と思ってるので。まあ、それは狭いだろうなと思うんですけど。

でも、裏を返せば「私が見たいっていうことは他にも見たいって人がいるだろう」って信じているところもあるので。「まあ狭いっちゃ狭いけど、深く行くこともあるから、めげずに出そう」と思って出し続けてたんですけど、本当に……今まで何本ぐらい企画書を書いたかはわからないんですけど。企画書自体でいうと、3ケタとか。けっこう書いてきているんですけども。

堀井:ええーっ! そうですか。

佐野:まあ、自分でボツにしているものももちろん、いっぱいあるんですけど。その出す前に下読みをしてる時点では「ああ、これはないな」とかっていうのも、もちろんあるんですけど。そうですね。本当にボツがほとんどですね。

堀井:それ、もったいないですね。どなたか、どこかの局が買うんじゃないですか?(笑)

佐野:形を変えて実現することもあるので。この前、NHKでやった『17才の帝国』っていうのは、企画自体は一緒にお仕事をした作家さんがつくってくださった企画なんですけれども。そこに載せているものでいうと、私が20代の頃に書いた企画書から一部、持ってきてる要素があったりとか。なので実はなんか、あんまりボツになって恨んでいたり、もったいないな、みたいな気持ちはまったくなくて。意外にそこでの要素っていうのがストックになって、持っていられるので。そこはすごく、若い頃にたくさん書いておいてよかったな、みたいな気持ちもあったりします。

自分だけで完結せず、人を巻き込んでいく

堀井:先ほど、3ケタに近づくような数を書いてらっしゃるみたいなお話をされてたんですけども。今、企画書を出してボツになる。それで悩んでるとか、「なかなか通らないな」っていう方もたくさんいらっしゃると思うんですが。なにか、そのモチベーションの上げ方とか、ありますか? 企画を出すことについて。

佐野:そうですね。やっぱりでも、自分のなかだけのエネルギーだとそんなに持たないんですよ。やっぱり「この人とこれをやりたい」っていう……少なくとも1人でいいので、パートナーを見つけて。「この人とやる」っていう。1人だけの悶々としたものより、やっぱりなんか2人で話して、そこで熱くなったものを文章にするっていう方が私はすごくいいなと思ってるので。行き詰まったら、やっぱり誰かに相談して。一緒にやりたい人……たとえばプロデューサーだったら、監督だったり、作家さんだったり。はたまた役者さんだったりとか。

あとは別にそういう人たちじゃなくても、別に助監督さんとかでもいいと思うんですよね。「これを一緒につくりたい。一緒のチームでつくりたい」と思える人を1人でもいいから見つけて、そこで企画を磨くっていうことはすごく大事なことだなと。そこに客観的な視点も入りますし。1人だけで悶々としているとなかなか……自分の20代のときに書いた企画書を見ても「すごい独りよがりだな」って思ったりするんですけど。やっぱり30代になって、企画が通るようになってきたというのは、他者の目線が入ってきてからだなと思ったりするので。困ったら、人に見てもらうっていう。一緒に働く仲間を見つけるっていうのがいいんじゃないかなと思いました。

堀井:それでボツになったものもやがて糧となって復活するという。

佐野:必ずなりますね。本当に「このキャラクター」っていうのもありますし。本当に単純な感じですけど、「この名前」とか。「この名前、いい」みたいな。名前をつけるのって、やっぱりけっこう大変なので。「ここでつけたこの名前、すごいよかったから、この名前を使おう」とか。なんかそれだけでも、成仏する感じがするんですよね。ただのボツっていうことじゃなくて。「このときに考えたこれは今、これに使われて無事、成仏しましたね」っていうのが一つひとつ、そうなっていくんじゃないかなと思うので。

堀井:そうですよね。自分で思い入れがあって書いたものですからね。なかなかね。

佐野:なんか他人にボツにされても、自分はボツにできないので。ただ、それはそうやってやりようがあるし。もう65ぐらいまではプロデューサーをやりたいなと思ってるので。やっぱりそのときのいろんなストックからまた……「ああ、これは独りよがりだけど、これをこの人と一緒に考え直したら、もしかしたらいい形になるかもな?」みたいなものもあったりしますし。まだまだ、諦めちゃいかんと思いますね(笑)。

堀井:なんか励みになります。たぶん今、企画書を書いてる方たちにもね。佐野さん、1年にどれぐらい企画書、書くんですか?

佐野:でもなんか若い頃、20代の頃はすごい尊敬してる先輩が「週に1本書いていた」って言っていて。

堀井:書きますねー!

佐野:書きますね。私はさすがにそんな体力と企画力はなかったので。月1本、書いていたので。なんか、そうですね。だから3年で30何本ぐらい。で、正月休みとかあると、もう少し書いたりとかして。ただ、会社に提出できるようなちゃんとした企画書の形になってなくても、企画メモっていう感じで。キャラクターだけ考えてあるものとか。ログラインだけ考えてあるものとか。そういうものももちろんあるんですけれども。

やっぱりそれを人に見てもらう企画書にするには、ひとつ大きなジャンプというか。「えいっ!」っていう勢いが必要なので。それはもう本当に精神と時の部屋みたいなところに入って。自分的精神と時の部屋に入って、本当にそこについて3日3晩ぐらい悩み尽くさないと企画書にはできないので。まあ企画メモとしていろいろストックしてあるっていう感じです。

友人を勝手に企画担当にしていく新たなスタイル

堀井:すごいですね。こうやって、そしてちゃんとドラマ化して、みんなが観るドラマになるっていうね。とても面白い仕事ですね。

佐野:本当に面白い仕事で。最近は企画メモの代わりに、いろんな人に「こういうのをやりたい」って。いろんな友人に話して。その友人がこの企画の担当みたいなふうに勝手に決めて。それはもう全然、違うジャンルの友人もいるんですけども。たとえば昨日も大学時代の同級生の弁護士をやってる友人がいるんですけれども。その方のところ、弁護士事務所に取材に行って。2時間ぐらい、いろんな弁護士の仕事のおしゃべりをして。そうすると、いろんなネタを……「こんな事件があった」とか。その友人がことあるごとに教えてくれるので。

だからその友人は、私がいずれ弁護士ドラマの企画をやりたいと思ってるので。その担当と勝手に自分で任命をして。そこでいろいろディスカッション、いわゆるブレストみたいなことをして。「こういう主人公がいいな」とか。なんか企画の種をいっぱいまいておくっていうのが今は割と……自分で独りよがりに、1人きりで企画メモを書くっていうよりもどちらかというと今はそういうふうに。40代からはそういうふうにやっていこうと思って、なんとなくそんなことをはじめました。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ


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