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『アクセシビリティって? "やさしさ”に依存しないで、働ける仕組みを職場に』 書き起こし(Podcast番組 「WEDNESDAY HOLIDAY 」12/4配信回)

12/4(月)配信のPodcast番組「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」は、私たちSmartHRが障害者週間にあわせて12/1(金)に公開したショートムービー「職場に必要なのは、あなたのやさしさです?」とコラボした特別回となっています。
ゲストに、SmartHRでアクセシビリティ向上の業務に携わるアクセシビリティスペシャリストの辻勝利を迎え、『アクセシビリティって? "やさしさ”に依存しないで、働ける仕組みを職場に』というテーマで番組パーソナリティの堀井美香さんと対談したこちらのエピソードの、文字書き起こしをお届けします。

音声版

ムービー「職場に必要なのは、あなたのやさしさです?」特設サイト

映像本編(字幕対応版・手話版・音声解説版の3種類があります)や、映像にこめたメッセージやシーン解説は下記サイトからご覧いただきます。


『アクセシビリティって? "やさしさ”に依存しないで、働ける仕組みを職場に』 書き起こし

※ 編集版や抜粋ではなく、できる限り音源に忠実に書き起こしています。

堀井:アナウンサーの堀井美香です。「"働く”を語る水曜日の夜」をテーマに、多彩なゲストと働くについて話すこの番組。今回は、株式会社SmartHRでアクセシビリティスペシャリストとして働くエンジニアの辻勝利さんをお迎えします。「働くすべての人を、人事労務から支える」SmartHRがお届けする堀井美香 「WEDNESDAY HOLIDAY」、ぜひリラックスしてお聞きください。

堀井:12月3日から12月9日までは障害者週間です。障害者の福祉についての関心と理解を深めるとともに、障害者が社会・経済・文化などあらゆる活動に積極的に参加する意欲を高める目的として定められたものということです。そこで本日は、ウェンホリ特別編といたしまして、先天性の視覚障害者でウェブアクセシビリティの啓発活動に20年ほど取り組んでいらっしゃる、株式会社SmartHRのアクセシビリティスペシャリスト辻勝利さんにお越しいただきました。辻さんよろしくお願いいたします。

辻:どうぞ、よろしくお願いします。

堀井:今、私の真ん前に白いボタンダウンのシャツを着て座ってらっしゃいますけれども、あの、先ほどお話していて、辻さんと私実は1学年差ということでほぼ同年代ということで。

辻:そうなんですよね(笑)。はい、よろしくお願いします。

堀井:よろしくお願いします。

辻:よくラジオではお声を拝聴しております!

堀井:あ、ありがとうございます(笑)ラジオとかはよく聞かれますか。

辻:やはりあの、元々僕の世代はラジオに育てられたようなところがありますの、でそれこそ幼稚園の頃にオールナイトニッポンを聞いたりとか

堀井:おお、幼稚園で(笑)

辻:はい。それで両親に怒られるようなことが日常茶飯事だったんですけど・・・(笑)

堀井:いや、でも本当に今、あの音声配信だったりポッドキャストだったり、いろんな音声の番組増えてきたなっていう実感はありますか?

辻:そうですね。あの音声コンテンツが増えてきたのと、本当に何て言うか、いろんな考えがこう聞けて楽しいですよね。

堀井:本当にそうですよね。今回はですね、辻さんのお仕事の話を通じて、「アクセシビリティって?やさしさに依存しないで、働ける仕組みを職場に」というテーマで、話していきたいなと思っております。よろしくお願いいたします。

辻:はい!

堀井:社会にあるさまざまな仕組みや環境は多数派に合わせたものが多く、そこから外れてしまうと同じ条件で使えなくなってしまうという問題が発生もします。最たるものであれば、身体的・精神的な障害、言葉の壁、または怪我や病気など、そうした状況を少しでも解消していこうとするのが、アクセシビリティ向上の考え方ということです。

辻:そうですね。もう本当に「アクセシビリティ」って、すごく難しい言葉で、堅いイメージのある言葉なんですけれども、本当に「みんなが同じものを同じように使えたらいいよね」っていうのがもう本当に、基本的なところになります。

堀井:アクセシビリティについても辻さんのお仕事を通してこれから探っていくわけなんですが、まず本当、私もですね、そのアクセシビリティって何なんだろう、ということをいまだにまだぼんやりとしかわかってなくて、最近この言葉を耳にした1人なんですね。もう少し初めて知るっていう人たちのために説明していただくとどういうことになりますか?

辻:はい、そうですね。やっぱり世の中にある製品とかサービスっていうのは、一般的な基準に基づいて作られてると言いますか、例えば目が見えて、手が動かせてっていうことを前提に作られてることがすごく多いんですよね。そうすると、目が見えないために紙に書いてある文字が読めないとか、あとはその、手が動かしづらいためにキーボードの操作がしづらいとかっていう人にとっては非常に使いにくいものだったりもするんです。それをなんていうか、みんなが使えるようにしていこうよっていう考えがアクセシビリティになります。

堀井:本当にもう障害に限らずいろんな不自由って、きっと世の中にあると思うんですね。高齢だったりとか、さまざまなケースがありますよね。

辻:そうですね。うん。例えば、ちょっと手を怪我してしまって普段と同じように物が動かせないとかですね、あとは、メガネを忘れたためにちょっといつもより見えづらいよとか、本当にいろんなパターンがあると思うんですね。で、元々このアクセシビリティって、障害者のために製品やサービスをよくしていこうっていうので始まってはいるものの、まあ、日本って今もう超高齢化社会だったりして、高齢化すると障害者が日常感じているような状況をどうしても感じてしまうような生活のスタイルになってくると思うんですよね。そういったときにも、これまで当たり前のように使えてたものか、当たり前に使えるようにしていこうっていうのが、はい、非常に大きなテーマだったりします。

堀井:本当にちょっと不自由とか、そんなものをみんなでなくしていこうというか、仕組みを変えていこうということですね。

辻:そうですね、はい。

堀井:私、いろいろ辻さんが、あの書かれているものですとか出ているものですとか拝見していて、何か辻さんの「やさしさ禁止」という言葉が、すごくそうなんだっていうか、新しい考え方だなと思いましたが。

辻:そうなんですよね。やはりどうしても障害者っていうと、例えば目が見えない人が歩いてて、道に迷ってて困ったら助けてあげようっていうのは多分それはやさしさなんですけども、そこに、迷わないような仕組みを作る。例えば、駅の方からはここが駅ですよっていうような「ピンポーン」みたいな音が鳴ったりとか、うん。あとは信号が青に変わったらカッコウとかピヨピヨみたいな音がしたりとか、なんか仕組みをつけることで、もし誰もそこにいなかったとしても、同じように生活ができるようにするのが本当は望ましいんじゃないかなと思っていて。人の善意とかやさしさで解決するんじゃなくって、仕組みで解決していかないと、これからの社会はもっとたくさんの障害者の人が、高齢によってこれまでできていたことがやりづらくなった人たちって(いう)のも増えてくると思うので、仕組みをしっかり整備していった方がいいよねっていう意味で。こう「やさしさ禁止」というふうに、はい、言っております。

堀井:本当にその通りですよね。なんかあの多分辻さんも困ったことがある時に、やっぱり多少の遠慮してしまったりっていうこともあるんじゃないですか?誰にお願いしようみたいな。

辻:はい、はい

堀井:ええ、そういうときにみんなが何か気をつかいあって、うん、やさしさでどっちも気を使っていいのかな、どうしようかなって思ったり、関係性で、辻さんもおっしゃってましたけど、上下ができてしまったり・・・

辻:そうですね。

堀井:やっぱりそういうものが生まれますか?

辻:やはり障害者ってのは大体やってもらう側になるので、いつも「ありがとうございます」って。もし仮に嫌いな人であっても、いつも「ありがとうございます」って言わなきゃいけないみたいなのが。やってる側も「この日、この人に対して私は良いことをしたんだから、私の方が偉い」みたいな、無意識の、なんていうんでしょうね、上下関係みたいなのができてしまうっていうのは、「やさしさ」(だけ)で解決しようとするとどうしても発生してしまうんですよね。
例えば僕が以前働いてた会社とかでは、毎月の給与明細っていうのが紙で提供されていまして、パリパリっと封筒の端っこのようなところを破ると紙がばらっとこう開けて、中に給与明細が書いてあるんですよね。

堀井:はい。

辻:一般的だったんですけど、それだと僕自身は読むことができないので、それをエクセルとかそういうアプリケーションのデータにして渡してもらうみたいな、ちょっと人事の人に手間をかけてしまうような状態で働いてたんですけど。

堀井:はい。

辻:それって元々紙じゃなくって、あのコンピュータで扱えるデータにしてしまえば、僕の場合は音声で聞いたり、あとは点字で読んだりすることもできますし、画面の文字が小さくて読みづらい人だったら画面を拡大して、文字を拡大して読むこともできるかもしれない。っていう可能性が広がったりするんですよね。なので何か基本的な仕組みをしっかり作っていけば、いろんな人が自分に合った形で情報を得ることができるっていうところも利点としてあるのかなと思ったりしてます。

堀井:そうですね。なんか、誰にも遠慮せずに、自分のやりたいこととか自分のしたいことができるっていう仕組みって本当に大事だなと思うんですけれども

辻:そうなんですよね。それこそあの、道を渡るときに1人で渡れたら好きな場所にも簡単に行けるのに、誰かの手を借りないと道が渡れなかったりとかすると、目的の場所に到達するまですごく時間がかかったりとか。なんか、時にはその場所に行くことを諦めてしまうこともあるかも知れないとかって(いうことが)あって、これがアクセシビリティを僕がずっと推進しようとしてるあの理由だったりします。

堀井:そうした中、辻さん、今SmartHRさんで、そのアクセシビリティスペシャリストということで、業務されてるわけですけども、今どんなことをされてるんですか?

辻:そうですね。毎月新しく、うちの会社大体毎月30人ぐらいの方が入っててくるんですが・・

堀井:それ聞いてすごいなと思いました(笑)

辻:その方々のほとんどがアクセシビリティっていう言葉を聞いたことがない方なんですよね、はい。だけど、やはり私たちはSmartHRという製品をすべてのお客さんに使ってもらいたいから、アクセシビリティっていうのはどうしても切り離せないテーマになるんですけれども、アクセシビリティがどうして重要なのかとか、なんでSmartHRがアクセシビリティを重視してるのかっていうのを知ってもらうっていう、その講座をやってたりとかするんですね。

堀井:はい

辻:あとは僕もいい年になってしまったので

辻:まだまだですよ(笑)。一緒に頑張りましょう(笑)。

辻: ありがとうございます(笑)。若い方々にもプロとしてアクセシビリティの仕事がしてもらえるように、スクリーンリーダーっていう、その画面の内容を音声とか点字にするソフトウェアがあるんですけど、これは結構使い方が難しいんですよね。その使い方を教えたりとか、社内外に向けた啓発活動っていうのが主な仕事になります。

堀井:今、そのスクリーンリーダーという言葉が出てきましたが、私も最近その、例えばkindleですとかその記事だったりを、全部スクリーンリーダーで車の運転中とか聞くととっても楽なんですよね。見なくていいので。ちょっとスクリーンリーダーに関してなんですが、今辻さんがお持ちですか?ちょっと聞いてみていいですか?

辻:もちろんです!はい。ちょっと今(スクリーンリーダーが)立ち上がってまして・・・例えば、「こんにちは」と書いてみます。これを今、「こんにちは」と読んでいて・・・(スクリーンリーダーから高速で流れる音声読み上げ音)

堀井:おお、すごい速度・・・!

辻:はい、これはですね。やっぱりどうしてもスクリーンリーダーって、今読んでる文字、ひと文字ひと文字にしか、なんていうか、着目できないというか。例えば、コンピュータの画面って広いじゃないですか。画面全体に情報が散らばってるんですけれども、今読んでるところが全てなので、探してる情報にたどり着くっていうのがすごく大変なんですね。なので、できるだけ早い速度で聞いてないと、探してる情報にたどり着くまでに眠くなっちゃうとかですね(笑)。

堀井:なるほど〜。でも、もう(いつも)この速度ですか?

辻:大体そうですね、普段はこの速度で聞いてることが多いです。あの、疲れてきたりとか、二日酔いのときは、若干速度を下げるんですけれども、

堀井:(笑)。同僚とのやり取りですとかも、スクリーンリーダーでされてるんですか?(それとも、)点字キーボード?

辻:あ、そうですね。同僚のとのやり取りは、音声でやり取りすることが多いんですけど、やはり資料を見ながらしゃべるときは、このスクリーンリーダーの音声を聞きながら会議に出ることもありますし、あと、点字のディスプレイというのがありまして、コンピュータの画面に表示されてることをそのまま点字に変換してくれる、なんていうんでしょう、ハードウェアがあるんですけれども、

堀井:ええ

辻:これに表示される展示を読みながら会議に参加することもあります。

堀井:読み上げも高速読み上げモードでずっと聞かれてらして、かつその絶対音感があるっておっしゃっていて(笑)。

辻:そうなんですよね。小さい頃にピアノを教わる機会がありましてその頃あのソルフェージュっていう、何かドレドレとかいうのを繰り返すような練習ばっかりしてたせいで、絶対音感みたいなのは何となくついたんですけど、それが時々変に役に立つことがありまして

堀井:(笑)

辻:お酒を飲んで酔っ払ってくると、受話器を持ち上げるんです。そうするとプーっていう電話をかける前の音っていうのがするんですけど、そうすると、自分が聞こえるその音の高さの違いで、なんか高く聞こえたり低く聞こえたりすると、きっとこれは酔ってるんだなっていうのを判断する材料になったりします(笑)。

堀井:すごい、すごい方向からの判断の仕方(笑)。いや、でもスクリーンリーダー作ったりとか点字キーボードを使ったりということで作業を進めてらっしゃると思うんですけれども、実際に辻さん以外にもいろんな障害を持つメンバーさんが、ソフトウェアの開発に取り組んでらっしゃるっていうことですね。

辻:そうですね。はい。やはりSmartHRがいろんな方に使ってもらえるようにするためには、もちろんそのスクリーンリーダーを使ってる僕みたいなユーザーが使えるっていうのもひとつの大事なポイントではあるんですけれども、画面を拡大したときに、どんなに大きな文字にしても、その画面上に重要な情報が切れたりとかしないかとかですね、あの表示が崩れたりしないかっていうことももちろんロービジョン、いわゆる弱視の方にチェックしてもらう必要とかもありますし、あとは上肢障害の方がいらして、そのマウスとかを思い通りに動かすことが難しい方にももちろん、SmartHRを快適に使っていただきたいなと思ってまして。はい、そういう方がトラックボールを使ってスマートHRを操作するときにも、例えばアイコンが小さすぎるとクリックしたいところがクリックできないとかっていうこともあるんですけど

堀井:なるほど。

辻:そういう不便がないかとかっていうのをチェックしてもらったりとかもしてます。アクセシビリティテスターっていう仕事としてそういうことをやっていただいてるんですけど、やはりアクセシビリティって、ある程度機械的にチェックをすることもできるし、開発をする側で気をつけることによって、いろんなユーザーが使えるようにすることはもちろんできるんですけど、やっぱり最終的に実際に使うユーザーがテストをするっていうのが一番重要なポイントになるので、そういうテストをしていただくような仕事をやっていたりします。

堀井:そうですね。(今は)もう本当にいろんなエンタメだとか、そのインフラの中でとかアクセシビリティをみんなで頑張っていこうというか、何か仕組みを変えていこうという動きは徐々にあるかと思うんですけど、本当にそうだったなと思って。その、会社における、人事の手続きとかそういったものって今までそういえばなかったなと思って。

辻:そうなんですよね。僕が初めてSmartHRを使ったのは前の会社にいた時なんですけれども、年末調整の時期に、今年はコンピュータで年末調整をやってもらいますって会社の人事の方に言われて。それまでコンピュータを使ってればなんでもスクリーンリーダーでうまく読めるかっていうと実はそうではなくって、やはりそれなりにスクリーンリーダーでもちゃんと読めるし、画面にもちゃんと表示できるようなことを考えて作らないといけないんですけど、これまであんまりよいソフトウェアに出会ってこなかったので、また大変な作業が降ってきたなと思ったら、意外と1人で年末調整を終えることができたんです。

堀井:ええ

辻:それまでっていうのが、やっぱり人事の人の時間の空いてるときを狙って、「すみません、書類を書いてもらえませんか?」ってお願いして、「いつもありがとうございます。」って頭を下げてみたいな風にしないと手続きができなかったものを、自分の力で完結できたっていうの妙に感動しまして。その当時は完璧に使えるわけではなかったので、これは中に入ってSmartHRというものを、もっと自分が使いやすいように直していけたらいいなと思って転職をしたんです。

堀井:すごーい(拍手)何かそのストーリーは初めて聞きました。そうだったのですね、そっか。そしたら、辻さんですとか、他の仲間もいるかと思いますが、そのSmartHRの中でそのソフトウェア、例えば人事評価や年末調整などの、そういう人事労務の手続きの際にも、本当に全員の従業員がちゃんと使える働く上でのインフラ的な仕組みみたいなものをこれから100%整えていきたい、みたいな気概でしょうか。

辻:そうですね。(SmartHRを)(整えていくのはもちろん重要なんですけれども、SmartHRが1社がそれをやっていたんではユーザーさんは選択肢がないですよね。例えば「SmartHRのこういうところが好きだけど、この機能はあの別のソフトウェアの方が使いやすいんだよね」っていったときに、その選択肢がなくなっちゃうので、やっぱり業界ごと変えていかないといけないなと。アクセシビリティが当たり前の社会に変えていかないと、やっぱり障害者は、いつまでもやさしさにすがって生きなきゃいけないみたいなところがあって。何か仕事をして家に帰っても、妙に仕事をした以上のような疲れが残るんですよね。

堀井:ええ

辻:それを、本当に仕事の疲れだけですむような社会に変えたいっていうのが今の思いだったりします。

堀井:ええ。でも、辻さんがそのプログレッシブデザイングループというところにSmartHRさんの中で所属されていたりとか、みんなで一緒に本気で、何でしょう、仕組みを整えていこうというところに向かってるっていう感じですよね、今ね。

辻:そうですね、はい。この業界で20年ちょっと仕事をしてますけれども、どうしても自分が自信を持って後輩に勧められるサービスとかソフトウェアになかなか出会わなかったんですよね。

堀井:うん、うん。

辻:なので自分がこの業界で仕事をしてきた証として、何というか、後輩に残せるものがあるとしたらきっとSmartHRなんだろうなっていう気が、今はしてます。

堀井:はい。今はどうですか?リモートワークも多いですか?

辻:ほとんどがリモートワークで、おかげさまで引っ越しまして。元々ちょっと電車に乗りやすいところに住んでたんですけど、今はもうちょっと田舎に引っ越しまして。それこそ春はうぐいす、夏は蝉みたいな(笑)

堀井:まあ、環境のいいところに!

辻:僕の同僚も、例えば福岡にいたりとか広島にいたりとか札幌にいたりとか、いろんなところで仕事をしていて。やっぱりアクセシビリティがちゃんと整っていると、場所とかにも影響されずに働けるっていうところがありまして。あの、リモートワークで一番ありがたいのが、お客様の会社を訪問するときなんですね。これまでだと、お客様の会社の名前を聞いて、それをGoogleマップとかで場所を調べて音声でGPSを使ったナビゲーションをするようなアプリケーションがあるんですけど。

堀井:はい

辻:あの、車についてる「その先、右です。」とかっていうのと同じような感じで、歩くのに合わせて、ナビゲーションをしてくれるようなアプリケーションを使って歩いていかなきゃいけなくて。ビルに着いたらビルに着いたってまずその受付があって。お客さんのオフィスが例えば15階とかだったら、乗るエレベーター次第では、30階に上がっちゃったりとかすることもあるんです。そういうところで、お客さんを訪問するときって30分ぐらい時間に余裕を見て出かけてたんですね。だけど今リモートワークをするようになってからは、会議の5分前にミーティングの準備をすれば、お客さんとすぐにお話ができて、息も切らさずお話ができるっていう意味で(笑)、すごい便利になったなと思います。

堀井:そうですよね、でも本当に、アクセシビリティのそれも一つの仕組みですよね、リモートでのお仕事っていうのも。何か出社されたりすると、例えばオフィスビルのトイレなんていうのは位置がわからないとかいうことも伺いましたが。

辻:そうなんですよね。トイレの中でよく迷子になるんですけどね。トイレってすごくやはり、何て言うんでしょうね、ドーンと、「こちらがトイレです」みたいな格好してないじゃないですか。

堀井:あはは

辻:まず入口を入ると、左に曲がって、右に曲がって、もう1回左に曲がって、右側に個室が並んでて、とかってちょっと入り組んだ格好をしてるんですね。一度入ってしまうと出口を探すのがとても大変で。

堀井:そうですね〜

辻:あとはトイレもそうですし、結構ヘビーにタバコを吸うんですけど、喫煙所を探すのが大変なんですよ。

堀井:(笑)。昨今はね、もう本当喫煙所はもう隅の隅に追いやられてますからね、どこのビルでも。

辻:そうなんですよね、ビルに1ヶ所しかなくて、しかもカードキーを使ってゲートを開けないと入っちゃいけないとかですね、そういう時代になって。

堀井:うーん

辻:そういう時代になって、なので会社に来たら、Slackっていうコミュニケーションツールを使ってるんですけど、誰か一緒に喫煙所に行きませんかってこうメッセージを投げたりとかしてですね、はい(笑)。みんな忙しいときは誰も声かけてくれないんですけど、そうですね。結構、その喫煙所を探すのと、トイレを探すのがオフィスでは大変だったりします。

堀井:あー、Slackを使うっていうのもいいですね。

辻:そうですね、はい。

堀井:オフィスに例えば、辻さんもそうでしょうけど、何か障害持ってたり不自由があるんだなという方がいた場合、私達はどうやって手を差し伸べたらいいとか、どういう距離感でいたら?

辻:基本的には、こういうお願いをしたいですっていうのを、多分僕たち障害者の側から伝えるっていうのも大事ですし、その時にもし手が空いてたら助けていただけるのはすごくありがたいんですけれども。例えばもう、数百人の人が同じオフィスで働いてると、昨日まではここに障害物がなかったのに、いきなり机が置いてあったりとかですね。

堀井:はい

辻:今日も実は、ちょうど今のクリスマスイルミネーションがビルにつけられる時期でして、普段、まっすぐ歩けてた道に柵があって歩けないとかあってですね、非常にびっくりしたんですけど。

堀井:そうですよね・・!普段と違うところにやっぱり驚いたりとか不自由があったりとかするかもしれないですよね。

辻:そうですね。そういう時にもし、何も困ってそうじゃなければ本当にほっといていただいて構わないんですけれども、何か困ってそうにしてたら、お手伝いをいただけるとすごく嬉しかったりはします。

堀井:何か仕組み的には変えられたら嬉しいなって辻さんが現在思ってるようなことはありますか?

辻:そうですね〜、仕組みでいうと、やはりもっと近くに喫煙所が来るといいなとかですね(笑)

堀井:(笑)。何か簡易的なね、組み立て可能なものがあるといいですよね

辻:そうです、ね本当になんていうかあのちっちゃいブースで構わないですねはい。もうちょっと近くに来てくれたら(笑)

堀井:ヘルメットとかね、いいなって言ってました、私の同僚は。ヘルメットを頭にかぶって、いつてもここで吸いたいって言ってましたよね(笑)。

辻:はいはい、そうですね(笑)。それはもうもちろん大事なんですけど、やっぱりあんまり広くないビルだったらそんなに迷わないんですけれども、例えばその1階と2階が吹き抜けになってて柱もほとんどないような、ちょっと例えるなら東京駅みたいな雰囲気のところ。音が反響して、自分が今どこにいるのかわからないような状況になることっていうのが結構苦手で。何かもしかしたらそれは、黄色い点字ブロックとかがオフィスの中に設置されていれば、もうちょっとまっすぐ、目的の方向に向かって歩けるのかなって思ったりとかもします。

堀井:そうですね。オフィスビルの中で、なかなかその点字ブロックとか、みんなもう今おしゃれになって、何も置かない、何かまっさらでみたいなところ多いですもんね。

辻:そうなんですよね。

堀井:私もどこに行ったらいいんだろうって。矢印が全然ないみたいなときが時々ありますからね(笑)。

辻:そうですね〜。

堀井:ねー。あのね、さっき辻さんにあるものをいただいたんですけど。これ、アクセシビリティの「アクセシビリ・ティー」の商品ですって、グッズですって。

辻:はい

堀井:これは、何でしたっけ?(笑)

辻:あのー、お茶なんですけどね(笑)。そうなんですよ、元々アクセシビリティってすごく堅いイメージがあって、障害者のために頑張らなきゃいけないみたいなイメージがあって、何とかそれを払拭したいなと思ってて。昔ポッドキャストをやってた頃に、「アクセシビリティをお茶の間に届けたい」っていうのが僕のテーマだったんですね。(そして)ちょうど今年イベントに参加するときに、アクセシビリティに関する当社のグッズを作りたいっていう話が出たときに、まあステッカーか何か持っていくのかなと思ってたんですよ。

堀井:はい

辻: SmartHRのアクセシビリティっていうステッカーを作ったとしても、それはそれで伝わる人にはちゃんと伝わるんですけど、例えば同じようなステッカーが5、6枚あったら僕は自分の会社のステッカーが選べなくなる、みたいなことがあるんですよね。何とか一部の人だけじゃなくていろんな人に刺さるグッズがないかなっていう話が出たときに、それはもう「アクセシビリ・ティー」がいいよって言ったらあっさり通っちゃいまして。

堀井:(笑)

辻:はい、そうなんです(笑)。それでアクセシビリ・ティーというお茶をですね、作ることになって。

堀井:(笑)はい、アクセシビリ・ティー、ほんと緑茶のね、みんなでアクセシビリティだな〜って思いながら読んで。なんか、SmartHRさんの文字が包んでる紙にも印字されてるんですが、これがちょっと浮き彫りになっているタイプで。

辻:そうなんですよ、触って確認できるんです。さっきこのグッズを受け取ってきたんですけど、こんな風に作ってくれたんだって。僕はお茶になったのは知ってたんですけど、パッケージまでアクセシブルにしようとしてくれたのがすごい嬉しかったんです。

堀井:これも一工夫だし、なんか楽しんでやってるところがまた素敵だな、なんて思いましたけど。

辻::本当に弊社の遊び心を大事にするっていうところを上手くやってくれたんだろうなと思いますね。

堀井:そしてちょっと辻さんにも迫っていきたいなと思ってるんですが、オフの日何されてるんですか?

辻:オフの日はですね、動画配信サイトで動画を見るのが好きなんですよ。それこそネットフリックスとかAppleTV+とかいろいろありますけど、昔は音声を聞いただけではなかなか画面の描写がわからないものっていうのが多かったんですけれども、最近は音声解説っていうのが入ってまして。普通に見てるときにはその音声解説は出てこないんですけど、音声言語の切り替えみたいのってありますよね。例えば英語のコンテンツだったら英語・日本語吹き替えみたいな感じで選べるチャンネルがあるんですけど、そこに音声解説っていうのが、入ってまして。

堀井:へえ〜

辻:それを聞くと、例えば「沈んだ表情の主人公の様子」とかですね。あとは画面上でしかわからない、例えば戦闘シーンで「わ〜」とかっていう声が聞こえたときにどっちが倒れたんだろうとか、何かそういう画面上でしか表現されてないものも、音声で解説してもらえるようなコンテンツがあるので、最近は楽しみが増えました。

堀井:昔ね、テレビだと副音声でそれを説明してたりもしましたけど、動画配信もそうなってるんですね。

辻: そうなんですよ。それで昔ももちろんそういう番組いくつかはあったんですけど、決して数が多くなくてですね。今のその動画配信サイトとか特にAppleTV+とかは、基本的に音声解説がついてるものが多くて。

堀井:へー、嬉しい。それは私も何か楽しみたいなって思いますけど。

辻:そうですよね、車を運転されてるときとかでもコンテンツの続きが楽しめると思います。

堀井:そうですよね。ちょっと逆の話ではあるんですが、うちの父が90近いんですけども、もうニュースが耳で聞き取れないと。

辻:はい、はい

堀井:で、この前実家に帰ったら全部字幕がそのまま流れるように設定してあって、「耳と目で言葉を追ってるんだ」って言ってて。「あらそうなんだ、おじいちゃんすごいじゃない」って褒めてきたんですけど(笑)。「字幕が出るんだよ、今。」って、しゃべった生放送の後にですね。

辻: そうなんですよ。バリアフリー字幕っていうのはしゃべってる情報プラス「電話のベルが鳴る」とか、そういう効果音についても字幕に出してくれたりとかするのもあるので、すごくコンテンツの楽しみ方って増えたなと。

堀井: そうですね。

辻:はい、思います。

堀井: まだまだ期待をしたいところですけれども、どうでしょう?これからこんな課題もちょっと直していきたいなとか、ここをもう少し頑張っていきたいなとか、何とかしていきたいなみたいな、ありますか?

辻: やはり社会の仕組みを変えるっていうところが最終的なゴールではあるんですけれども、そこに向かってまだまだ僕たちも取り組みを始めたばかりなので、もっと同じような志を持ってくれる会社とか、あとはサービスとかいっぱい出てくるといいなと思うんですよね。なんかアクセシビリティをちゃんとやってるのが今はもう本当に特別なことみたいになっちゃってますけど、

堀井:うん。

辻井:アクセシブルなことは当たり前で、うん、うちはこんな追加機能もありますよとか、うちだったらこういうところまで情報を出せますよとか、なんかそういう、何ていうんでしょうね。ユーザーが選ぶ楽しみがまだまだ多いとは言えない状況なので、そういうところも、うーん、社会を変えていけるといいなって思ってます。

堀井:はい、本当に辻さん魅力的な方なんですが、実はあの辻さんが演技をされているですね(笑)、動画がこのたび、12月1日配信になりまして、ぜひぜひ皆さんこれご覧いただきたいんですが、SmartHRさんからの(映像)「職場に必要なのは、あなたのやさしさです?」。この映像には、その「やさしさ」辻さんにとってはキーワードの一つでもあるかと思うんですけど、どんなメッセージを込めていますか?

辻:そうですね。あの僕のシーンのお話をするとですね。コーヒーを買おうとしてそのコーヒーの自動販売機の前でボタンを探して迷ってたら。

堀井:はい

辻:同僚がやってきて「ブレンドですよね。」ってポンッて押してくれるっていう。優しい同僚じゃないですか。それはそれで、一般的によくある優しい気がつく同僚だよねっていうので、一つのストーリーとして成り立つんですけど、もしそこで視覚障害者の人が「今日はいつも飲んでるブレンドじゃなくて、何か違うものを試してみようかな」ってしてたとしたら、その同僚の優しさって実はおせっかいになっちゃうというか、何かそういうこともあるわけなんですけれども。そういう、なんて言うんでしょう。本当はそこに例えば、自動販売機のボタンのあたりに点字がついていたら自分で選べたかもしれないとかって考えると、それって仕組みを改善すれば良くなったりすることなんですよね。

堀井:うん、うん。

辻:もちろん「やさしさ」はすごくありがたいんだけど、それだけじゃなくて「仕組み」で解決できるようになったらもっと働きやすい職場っていうのができるんじゃないかなっていうのをメッセージとして込めています。

堀井:あの、短い動画だったんですけど、私は「そうだそうだ」ってなんか気持ちを改めることが。そうですね、そんな動画でしたし、やっぱり本当に辻さんのおっしゃってたように、思いやりとか優しさ(だけ)に頼ったりっていうことだけではなくって、環境の整備をっていうこともありますね。

辻:はい

堀井:(番組)概要欄にリンクを貼っておきますので、ぜひぜひ皆様、その短い動画の中にメッセージを感じ取っていただきたいなと思いますし、辻さんの名演技もぜひぜひ(笑)。

辻:あはは

堀井:何か躊躇している感じとか、すごく巧みに表現されておりましたので、見ていただければなというふうに思っておりますけれども。

辻:ぜひ、よろしくお願いします。

堀井:はい。これからですね、どんな未来というかどんな夢がありますか?辻さんは

辻:そうですね〜、あの、自分で車を運転したいですよね。

堀井:えー、そっかー

辻:はい。子供の頃にナイトライダーっていう海外ドラマがありまして、喋る車が、ドライバーが寝てても目的地まで行ってくれたり、敵からを守ってくれたりとかするようなSFがあったんですけど

堀井:ええ、ええ(笑)

辻:何かそういう自分で好きに車が運転できるようになるといいなっては思ってます。

堀井:あー、すてき。だんだん音が違ってきてね、なんか波の音が聞こえてきたりとか寒くなってきたなとか。乗っていてどんどん体感が変わっていくっていう。あるでしょうね、早く来るといいなと。でも、もうじきかもしれないなとも思いながら。

辻:そうなんですよね。意外と海外では自動運転のタクシーを使って全盲の方、目が全く見えない方が、気に入りのレストランに行くなんてことも普通にあるらしいんですよ。

堀井:ええ。

辻:で、面白いのが、どうやって自分が乗るべきクルマを探すかっていう
と、その遠隔操作で車のクラクションを鳴らすことができるらしいんです。

堀井:え?! 

辻:その機能を使って2回スマホでクラクションのボタンを押して2回ピッピってなったら「これに乗ればいいんだ」みたいに車を探すみたいな使い方をしてらっしゃる方もいるらしいので、

堀井:えー(笑)

辻:早く日本にも来てくれるといいなと。あの、僕の実家がものすごい田舎なんですよ。バス停から2キロぐらい離れたところで、なかなか家から出るのも一苦労なんですけれども、1回出たらまた帰ってくるのも一苦労なので、自分で車が運転できるようになると、いろんな地方に住んでる視覚障害者の方とかも、もっと気軽に外出ができたり、好きなものをたくさん買い物できたりするんじゃないかなって思ったりしてます。

堀井:気持ちも、行動も、制限されないっていうね。そんな世の中ができるといいですね。

辻:はい!

堀井:ありがとうございます、今回は特別編ということで、株式会社SmartHR プログレッシブデザイングループ・アクセシビリティスペシャリスト辻勝利さんに伺いました。今回の辻さんのお話が、働く全ての皆さんにとって何か新しい視点を持つきっかけになればいいなと思っております。辻さん、本当に、なかなか聞けないお話でした。ありがとうございました!

辻:いえいえ、こちらこそ。お招きいただきましてありがとうございます!